研究課題/領域番号 |
20K21746
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
原 正之 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (00596497)
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研究分担者 |
菅田 陽怜 大分大学, 福祉健康科学部, 講師 (30721500)
大鶴 直史 新潟医療福祉大学, リハビリテーション学部, 教授 (50586542)
大西 秀明 新潟医療福祉大学, リハビリテーション学部, 教授 (90339953)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | コグネティクス / 脳磁図 / ハプティクス / ロボティクス / ニューロリハビリテーション |
研究実績の概要 |
本研究課題は,メカトロニクス要素技術を適用することで脳磁図(magnetoencephalography:MEG)計測環境で使用可能なハプティックデバイス(触力覚提示装置)を開発し,ニューロリハビリテーション研究にブレークスルーを与えることを目指したものである.2021年度の研究では,主としてMEG計測環境で使用可能な温感提示装置の設計・試作を行い,その基本性能の評価を行った. まず,これまでの研究でMEG対応性が示唆されているペルチェ素子を用いて温感提示装置の試作を行った.具体的には,MEG計測環境において研究参加者にサーマルグリル錯覚(thermal grill illusion:TGI)を惹起して錯覚的な灼熱感や痛みを提示することを考え,4つのペルチェ素子と銅板を用いて手の平に4種類の温度を提示可能な温感提示装置の設計を行った.4つのペルチェ素子の表面温度を独立して制御するために,4chの温度センサシステムや電流アンプを作製するとともに,水冷システムや鉄製ボックスを用いた磁気シールドの作製なども行った. 次に,試作機を用いて健常者8名に対してTGIを惹起する予備実験を実施し,統制群と実験群での灼熱感や痛みをアンケートにより評価した.統制群では全ての銅板を40[deg C]に制御し,実験群では手首側から数えて1枚目と3枚目の銅板面(高温面)を40[deg C]に,2枚目と4枚目の銅板面(低温面)を10,20,30,40[deg C]のいずれかの温度に制御した.実験の結果,予想よりも弱いTGI体験が報告されたものの,試作機により研究参加者が錯覚的な灼熱感や痛みを体験できることを確認でき,MEG環境下でのTGIを用いた認知実験の可能性を示すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の研究成果(特に,磁気シールドの知見)を基礎として,2021年度の研究では新しくMEG環境下で使用可能な温感提示装置(TGI惹起システム)の設計・試作を行った.また,ヒトを対象とした予備実験(TGI惹起実験)により,試作機を用いることでMEG環境下でも灼熱感や痛みを錯覚的に提示・制御できる可能性について示唆することができた.このことから,MEG対応ハプティックデバイスの開発については「おおむね順調に進展している」ものと考える. 一方,2021年度の計画では研究分担者が所属する機関(新潟医療福祉大学や大分大学)の関連施設・病院(西新潟中央病院など)にあるMEG装置を利用して,これまでに試作した装置のMEG対応試験を研究分担者とともに実施する予定であったが,2021年度も新型コロナウイルス感染拡大の収束が見られなかったため,研究分担者の所属機関への出張と関連施設・病院でのMEG対応試験の実施が困難となった.このため,試作機のMEG対応性の検証・確認については,実験プロトコルの策定や研究分担者とのオンラインでの研究打ち合わせなどしか行えず,当初の研究計画からはかなりの遅れが生じることとなってしまった. 以上のことから,本研究課題は全体としては当初の研究計画からやや遅れて進行しているものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は本来2021年度で終了するものであったが,2021年度も新型コロナウイルスの影響は収束を見せず,研究分担者が所属する機関の関連施設・病院にあるMEG装置を用いて試作機のMEG対応試験を実施することが困難になったため,2022年度まで研究期間の延長を行った. そこで2022年度の計画では,試作機のMEG対応試験に焦点を当てた研究を推進する.具体的には,これまでに試作したシールドアクチュエーションシステムやTGI惹起実験用温感提示装置を実際にMEG計測環境に持ち込み,研究分担者とともに様々な条件で試作機を駆動した際のMEG対応性について調査する.具体的には,デバイスがMEG計測環境にセットされていない状態をベースラインとし,モータドライバ/電流アンプをONにした際や回転速度や提示温度などの駆動条件,装置の配置などを様々に変化させた際に,実際にヒトの脳活動をMEGで取得してその波形を比較することで,試作機の駆動がMEG計測にどのような影響を及ぼすかについて検証する.試作機の駆動時に,無視できないレベルのノイズが現れた場合には,その影響をどのようにキャンセル/低減できるかなどについても検討する.このMEG対応試験の結果を基礎として,実際のMEG実験に適用できる形でハプティックデバイスを構築することを目指す. 最終的には,開発したMEG対応の力覚提示装置や温感提示装置を運動学習実験や痛みに関する実験パラダイムに組み込むことを試みる.これにより,本研究課題で試作した装置のニューロリハビリテーションに対する有効性や適用性について検証することも考える.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の計画では,研究分担者の所属機関に出張し,その関連施設・病院にあるMEG装置を利用して,これまでに試作した装置のMEG対応試験を研究分担者とともに実施する予定であったが,コロナウイルス感染拡大の影響でその実施が困難となり,計上していた出張旅費や人件費などをほとんど使用することができなくなった.また最近の半導体不足により,試作機の制御に必要不可欠な入出力装置や電流アンプの供給がかなり遅延しており,MEG対応試験のための機材が十分に整わなかったことも,次年度使用額が生じた理由の1つとなっている. そこで2022年度は,ペンディングしていた試作機のMEG対応試験の実施を主として行うことを考えており,研究分担者の所属機関および関連施設・病院への出張を複数回行い,出張旅費や人件費などを計画通りに執行することを試みる.また既に発注手配を行っている電流アンプなどの購入を行い,MEG対応試験の準備を進めるとともに,設備費や消耗品費の適切な使用を行う.
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