研究課題
肥満に起因した生活習慣病の予防や病態制御の解明は医学・健康科学の大きな課題である。全身のエネルギー代謝を司る脂肪細胞は、外的環境を感知してそれに適した機能(脂肪蓄積または脂肪燃焼)を獲得する。本研究では、脂肪細胞が細胞外の栄養を代謝することで感知し、糖を脂肪に変換して蓄積する機能を獲得するしくみをエピゲノムレベルで解明することを目的とする。本研究で得られる成果は、生活習慣病の効果的な予防・治療法につながる。高グルコースあるいは低グルコース下において、脂肪細胞分化過程でのメタボローム(代謝物)、トランスクリプトーム(遺伝子発現)、エピゲノム(後天的ゲノム修飾)の統合解析を行った。高グルコース下では、α-ケトグルタル酸をはじめとするクエン酸回路代謝物の上昇、解糖系遺伝子群の転写抑制系ヒストンメチル化 (H3K9me2) の低下、解糖系遺伝子群の発現上昇、解糖系速度の上昇、脂肪滴の蓄積が見られた。一方、低グルコース下では、α-ケトグルタル酸の上昇、転写抑制系ヒストンメチル化の低下、解糖系遺伝子群の発現上昇、脂肪蓄積が抑制された。解糖系遺伝子群のヒストン脱メチル化酵素として、α-ケトグルタル酸を補酵素とするJMJD1Aを明らかにした。JMJD1A発現抑制下では、転写抑制系ヒストンメチル化の低下、解糖系遺伝子群の発現上昇、脂肪蓄積が抑制された。すなわち、脂肪細胞は細胞外グルコースをα-ケトグルタル酸に代謝することで感知し、解糖系遺伝子群のヒストン脱メチル化を行うことにより、糖を脂肪に変換して蓄積する機能を獲得する。本研究により、栄養-代謝-エピゲノム軸による脂肪細胞機能調節の仕組みの一端が明らかとなった。
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http://www.mm.rcast.u-tokyo.ac.jp/publications/pubs.html