骨格筋には筋記憶と称される機能、すなわち過去のトレーニング(TR)経験が骨格筋に保持され、再TR時の骨格筋適応を促進させることが示唆されている。こうした機構がミトコンドリア適応にも及ぶのかの科学的証拠は存在しない。本研究では過去のトレーニング(TR)経験が、筋肥大のみならずミトコンドリアの適応性にも及ぶのかを検証した。被験動物にクライミングTR(RT)あるいはランニングTR(ET)を課した。TR後に脱TRとTRを再開する条件を設け、各時点での骨格筋を分析した。ET条件では、TR記憶の表現型として再TR後に筋線維が1度目のTRよりも肥大した。この時、タンパク質合成/分解に関わるHSPsの応答性も同様に変化した。なお、筋核数とミトコンドリアタンパク質発現との間に相関関係が得られたが、クロマチンのグローバル検証ではヒストン修飾の変化を検出できなかったのでRNAseqとChIP解析を進め、運動記憶に関わるエピジェネティクス制御の特定を急いでいる。 今後、骨格筋の収縮力と代謝能力の記憶メカニズムが明らかになれば、運動への応答性の個人差の分子メカニズム、運動で獲得した形質の保存と遺伝性の探求等、運動を切り口にした骨格筋のエピジェネティクス研究を発展させる可能性を持つ。さらに、運動のエピジェネティクス制御の解明は、人々の運動実施方法や習慣化を通した健康増進や疾病予防に資するための基礎実験として、新たな細胞機能向上を提唱することとなる。
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