有酸素運動や麻痺手の強制使用など、脳卒中リハビリテーションで有効性が認められている治療法の多くは、患者に多大な努力を要求する。よって、セラピストには患者をうまく動機づけ、やる気を出させるためのスキルが必要である。本研究の目的は、脳卒中患者の意欲を高める新しい体系的な介入プログラムを開発し、その効果を検証することである。これまでの研究で、セラピストと患者から臨床で用いられている様々な動機づけ方略についてアンケート調査およびインタビュー調査を行った。これらによりリハビリテーションにおいて有用と考えられる動機づけ方略のリストを作成した。次のプロセスとしては、様々な動機づけ方略を運用するための動機づけモデルが必要になる。そこで、教育工学の分野で提唱されているARCS動機づけモデルを作業療法と嚥下療法に応用する実行可能性研究を実施し、本年度はデータ分析および論文のまとめを行った。ARCS動機づけモデルは、学習者の注意、関連性、自信、満足感に働きかける動機づけ方略を示しており、本研究ではこれらの観点から介入プログラムを設計した。介入期間は4週間とし、介入群のみの前後比較デザインにより、リハビリテーションに対する動機づけの変化と運動および嚥下機能の改善を評価した。その結果、介入の脱落率は0%であり、高い受容性が示された。加えて、動機づけの向上とともに、日常生活動作や上肢運動機能、嚥下機能の改善が認められ、効果量は大であった。一方、うつ症状やアパシーについては統計学的な有意差は得られなかった。以上より、ARCS動機づけモデルに基づくリハビリテーション介入の実施可能性が示唆された。本手法は、セラピストへの教育負担が少なく、汎用性の高い動機づけ手法として期待される。今後は、ランダム化比較試験によるエビデンスの蓄積が求められる。
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