癌、心不全や糖尿病などの慢性疾患や加齢は筋萎縮を引き起こす。筋萎縮はフレイルやロコモティブ症候群を発症することから、筋量を維持する分子メカニズムを解明し予防や治療に応用することは、健康寿命の延伸や医療費削減の観点から重要な課題である。定期的な運動は骨格筋の形態や機能を改善することで筋萎縮を抑制する。運動が筋萎縮を抑制する分子メカニズムは、転写補助因子やリン酸基転移酵素などの活性化による筋タンパク質の合成と分解、ミトコンドリアの量や毛細血管密度などの適正化が要因である。しかしながら、近年のバイオインフォマティクスや遺伝子組換え技術を用いた報告を統合すると、運動による筋萎縮の抑制機構には未知の因子が関与する可能性が高い。 そこで申請者は、骨格筋に発現する免疫抑制シグナルに着目した。免疫抑制シグナルは、免疫細胞の他、様々な臓器に構築されていることが知られている。しかしながら、免疫抑制シグナルは骨格筋にも存在(発現)するか、また発現する場合、筋量の維持に対する役割や運動により発現が変動するかは明らかではない。これらを解明するため申請者らは研究を推進し、1)マウス骨格筋に免疫抑制シグナルが存在すること、2)運動などの筋収縮刺激で増加すること、3)この発現を筋特異的に消失しても筋量に影響を及ぼさないことを立証した。
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