研究課題/領域番号 |
20K21769
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
宮崎 充功 北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 准教授 (20632467)
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研究分担者 |
坪田 敏男 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (10207441)
下鶴 倫人 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (50507168)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 冬眠 / 骨格筋 / 萎縮 / 生理活性物質 / ツキノワグマ |
研究実績の概要 |
冬眠動物の骨格筋重量は、5-6ヵ月におよぶ冬眠期間の前後でほとんど変化を示さない。つまり冬眠動物には、長期間の不活動状態下でも筋肉量を維持することが出来る、骨格筋萎縮耐性ともいえる生体機能の存在が推察される。我々は予備的検討として、活動期・冬眠期に採取したツキノワグマ血清をヒト骨格筋培養細胞に添加し、筋タンパク質代謝に与える影響を解析した。その結果、活動期血清に比較し、冬眠期に採取したクマ血清の添加培地において有意な筋細胞内タンパク質量の増加を確認した。また冬眠期クマ血清をヒト骨格筋培養細胞へ添加することで、Akt/FOXO3系といった成長因子依存性のシグナル経路が活性化されること、さらにはFOXO系の下流因子である筋特異的E3ユビキチンリガーゼAtrogin1やMurF1の発現調節を介し、筋タンパク質分解系が抑制されることを見出した。これらの結果は、クマ血清中には冬眠誘導性に分泌される生理活性物質が存在し、骨格筋タンパク質代謝を結果的に正に制御する可能性を強く示唆している。この血清中生理活性物質の候補因子として、Akt/FOXO3系を正に制御するInsulin-like growth factor 1 (IGF1)に着目したところ、冬眠期血清中においてIGF1分泌量の増加を確認している。現在は、上記の予備的検討結果をまとめ、原著論文として投稿準備を進めている。さらには、その他の冬眠誘導性生理活性物質の同定を目標とし、プロテオミクス的手法を応用した解析を進行中である。このクマ血清中に存在する生体機能分子を特定することで、骨格筋萎縮耐性を獲得するための分子標的薬の開発やヒトの身体機能低下を防止するための新たな治療戦略立案に繋げることを最終目標としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
立案した研究計画に従い、初年度においては活動期・冬眠期における血清を含むクマ生体材料の採材の実施、またそれらを利用したヒト培養細胞への添加実験系を確立し、骨格筋タンパク質代謝系に与える影響を解析した。その結果、ヒト骨格筋培養細胞への冬眠期クマ血清の添加がタンパク質代謝を正に制御すること、さらにはその制御系の詳細を明らかにすることが出来、論文投稿準備まで進めるなど、極めて順調に研究実施されている。今後も当初の研究計画に従い、プロテオミクス手法を応用した新規生理活性物質探索を継続する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、本研究計画は当初の研究計画に従い概ね順調に実施されている。今後は、採取したクマ血清中に含有される新規生理活性物質を探索し、それらが骨格筋細胞のタンパク質代謝に与える影響を解析していく。まずはアルブミン・グロブリン等の高含有量タンパク質の除去手法を確立した後に2D-DIGEを行い、含有タンパク質のディファレンス解析から、LC-MS/MSによるタンパク質同定を試みる。一方で、候補スポットが数多く確認されることも予測されるため、その際にはiTRAQタンパク質発現・相対定量といった比較定量プロテオーム解析の試行を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度における研究遂行状況が当初予定より良好であり研究用消耗品を含む物品費支出が想定より少なかったこと、新型コロナウイルス感染拡大に伴い旅費支出を控えたことにより、次年度使用額が生じた。次年度以降のプロテオミクス解析に比較的多くの費用支出が見込まれるため、その解析費用としてしよう予定である。
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