研究課題/領域番号 |
20K21775
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
長谷 公隆 関西医科大学, 医学部, 教授 (80198704)
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研究分担者 |
田口 周 関西医科大学, 医学部, 助教 (40786191)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 高齢者 / 片麻痺歩行 / 動作解析 / 人工知能 / 介護保険診療 |
研究実績の概要 |
高齢者が抱える機能的問題の原因を抽出する人工知能の開発を目指して、歩行ならびに起居動作の動作分析システムを構築した。歩行については3次元分析データから足圧中心(center of pressure:COP)と重心(center of mass:COM)を算出し、高齢者群(30名:72.2±5.7歳)及びデイケア通所中の片麻痺患者群(30名:65.8 ±10.0歳)の歩行速度改善に必要な治療指針の抽出を試みた。高齢者ではつま先離地時のCOM-COP距離が歩行速度に強く関与したことから、この距離に寄与する歩行指標を、若年者歩行のデータベースを用いて、10指標で構成される基本空間に対するマハラノビスの距離がCOM-COP距離と相関関係を示す指標の組み合わせを、636指標の中からマルコフ連鎖モンテカルロ(Marcov chain Monte Carlo:MCMC)法によって抽出した。その結果、床反力前後成分の同側下肢推進力(r=0.63)や対側下肢制動力(r=0.69)がサンプリングされた。同様に片麻痺患者群では、つま先離地時のCOM-COP距離に加えて麻痺側COP軌跡長が歩行速度に関与し、MCMC法でサンプリングされた麻痺側立脚後期膝関節角度がこれと負の相関を認めた(r=-0.45)。以上から、高齢者では立脚後期に足部を後方に保持する能力の改善、片麻痺患者では麻痺肢立脚後期に膝関節伸展を誘導することでCOPの前方変移を促すことが歩行速度改善に有効であることが示唆された。特定の活動能力を改善するための運動学的目標が示されることで、治療方略が方向付けられる点で有意義である。起居動作については座面圧センサーを動作分析システムに導入し、計測時の同期化を完了した。健常高齢者を対象とした起居動作の計測に必要な倫理審査承認を得ており、マーカーレス3次元動作分析装置の特性評価と同期化を完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
健常高齢者の基本データに基づいてデイケア通所中の要支援・要介護者を対象とした評価を進める予定であったが、3次元動作分析の計測場所が大学病院内の総合リハビリテーションセンターであるために、新型コロナ感染予防への対応として健常者のデータ計測は見合わせている。健常者データの計測に必要な機器の設備やIRB承認等の準備は完了しているが、感染状況を鑑みながら、高齢者へのワクチン接種完了後に公募を開始し、データ計測を行う。これに附随して令和2年度の研究分担者の実支出は発生しなかった。 歩行能力に関する研究については、健常者100名以上の3次元歩行分析データが集積できているので、これを用いた要支援・要介護にある虚弱高齢者に関する人工知能システム開発を、デイケア通所者を対象に進めた。人工知能システムに投入する初期値設定がアルゴリズムを左右することから、健常者の年齢による特性の評価ならびに運動学的指標として重要な足圧中心と重心で形成される特徴量に関する特性を検証した。この知見を参考にして、起居動作での3次元動作分析データにおける基本空間形成に向けた初期値選択を行う。 マーカーレス3次元動作分析についての同期化を完了するとともに、若年健常者を対象にして、計測精度に関する検討を3次元動作分析との比較によって歩行を課題に実施した。股関節および膝関節のICCは、立脚期前半は0.79~0.86、立脚期後半は0.78~0.91、遊脚期は0.89~0.95だが、足関節では立脚期0.6、遊脚期0.3程度であった。運動速度及び範囲が大きい場合には計測精度が低くなるが、立ち上がりや着座、リーチ動作などの起居動作では適用可能であることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
健常高齢者を対象とする起居動作解析については、高齢者のワクチン接種完了後に公募・データ計測を開始する。立ち上がり・着座・床へのリーチ動作及び段差昇降を課題として、動作分析や認知機能評価、栄養評価などを予定通り実施する。デイケア対象者のデータ収集は引き続き継続し、令和3年度はマーカレス3次元動作解析の応用可能性についての検証も実施する。香里病院のデイケア通所者については、附属病院で動作解析を実施する予定であったが、令和3年度研究費にて同施設に3次元動作解析装置を設備できることとなったため、デイケア通所者に対する交通費等の支払いが必要なくなった。健常高齢者の動作解析データ計測を加速するため、香里病院デイケア通所者への交通費分等を用いて、感染予防の観点からも、計測・解析を専属で行う研究補助員(理学療法士)を雇用する。 歩行については、治療アルゴリズムの構築に着手し、最終年度において臨床応用が可能となるように準備を進める。バランス指標に寄与する起居動作での指標についても適宜解析を進め、治療するべき課題の抽出を令和3年度内に試みる。その結果に応じて、最終年度における臨床応用の方略を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
健常高齢者の基本データに基づいてデイケア通所中の要支援・要介護者を対象とした評価を進める予定であったが、3次元動作分析の計測場所が大学病院内の総合リハビリテーションセンターであるために、新型コロナ感染予防への対応として健常者のデータ計測は見合わせている。したがって、令和2年度の研究費使用は計測に機器設備のみを請求し、デイケア通所中の要支援・要介護者を対象とした評価を先行して実施したため、健常高齢者計測に際しての人件費や成果発表経費等の請求は次年度に持ち越した。高齢者へのワクチン接種が完了した後に、枚方市シルバー人材センターで公募を行う予定であり、次年度において持ち越した助成金を交通費・謝金として使用する。
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