高齢者が抱える機能的問題の原因を抽出する人工知能の開発を目指して、標準的なバランス機能評価であるTimed Up and Go Test(以下、TUG)、Community Balance and Mobility Scale(以下、CBMS)に加えて、歩行・段差昇降・物拾い・立ち座り動作の3次元動作分析データを収集した。枚方市シルバー人材センターの協力を得て、下肢筋力、生活関連動作(Frenchay Activities Index)、併存疾患指標(Charlson Comorbidity Index)、日本版 Montreal Cognitive Assessment、Mini Nutritional Assessmentを含む健常高齢者105名(男性65名、女性40名:平均年齢68.7歳)のデータベースを構築した。計測は疲労を考慮して各被験者について2日間に分けて実施した。TUG は最大歩行速度と弱い相関を認めたが(r=0.351)快適歩行速度とは相関しなかった。一方で、CBMSは快適歩行速度との相関を認めた(r=0.513)。 高齢者では昇段動作よりも降段動作での転落リスクが3倍高いことから、降段時の3次元データを用いた階層性クラスター解析を実施した。高齢者の降段動作は若年者と同様のパターンの他に、膝関節屈曲によって大腿骨・体幹を後傾させて降段する伸展タイプ、体幹回旋によって降段する回旋タイプに類別された。下肢筋力や歩行速度、TUGはタイプ間で有意差を認めなかったが、CBMは伸展タイプ、回旋タイプで有意に低く (p < 0.05)、サブ解析の結果、CBMにおける筋力およびバランス要素が有意に低かった(p < 0.05)。降段動作のパターン分析は、加齢による機能低下を鋭敏に同定できる可能性を示唆しており、下肢筋力等との関係を含めて研究成果を英文誌に投稿予定である。
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