研究課題
これまでに、疲労の慢性化を伴う生体機能調節機構の経時的な変化や遺伝子発現プロファイルを網羅的に探索し、慢性疲労に陥る臨界期でのバイオマーカーや分子プロセスについて検討してきた。疲労の慢性化を伴う体温や睡眠など生体信号の経時的な変化を検討した研究では、疲労負荷初期には持続的な体温上昇が現われること、疲労負荷後半には体温が徐々に低下し始めることを明らかにした。さらに、疲労負荷後半においては、低い体温でより顕著な尻尾での散熱反応が現れることを明らかにした。白血球分画を用いたトランスクリプトーム解析では、疲労負荷初期にはクエン酸代謝回路など通常のエネルギー代謝に関わる遺伝子群の発現が活発であるが、疲労負荷後半にはヒトT細胞白血病ウイルス1型や関節リュウマチなどの感染や自己免疫疾患に関わる遺伝子群の発現が活発になることを明らかにした。血中の酸化ストレス度や炎症性サイトカインの動態変化を評価した研究で、疲労負荷後半において酸化ストレスが有意に増加すること、IL-1βなどの炎症性サイトカインの濃度が上昇する結果と考え合わせると疲労負荷初期には、エネルギー代謝が活性化し、疲労負荷に対応していくが、疲労負荷が持続するにつれて、酸化ストレスの上昇や全身性の炎症反応が引き起こされることを示唆している。また、興味深いのはPETを用いた脳内炎症の定量解析では、全身性の擬似感染によって、血中のIL-1などの炎症性サイトカインが上昇し、迷走神経の求心路を介して背側縫線核などの疲労感惹起に深く関わっている脳内領域において局所炎症を引き起こし、疲労誘発に関わる所見も得ている。これらの結果は、疲労の慢性化を伴って生体機能調節機構が徐々に乱れ、全身性の炎症反応が引き起こされ、最終的には背側縫線核などでの脳内炎症を介して慢性疲労に陥ることを示唆している。
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