研究課題/領域番号 |
20K21779
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研究機関 | 至学館大学 |
研究代表者 |
多田 敬典 至学館大学, 健康科学部, 教授 (20464993)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | コルチゾール / 概日リズム / 認知機能 |
研究実績の概要 |
加齢は認知症最大のリスク要因であるが(Hou et al., Nat Rev Neurol, 2019)、加齢に伴う身体的変化は多岐にわたる。そのため認知機能に対する加齢の影響は複雑である。その中で、加齢性変化とライフスタイルとの因果関係が注目を浴びており、内分泌機能に起因するものが多く含まれる。実際、認知症においても内分泌機能異常を引き金とする症例が複数存在し、さらには内分泌機能異常が認知症重篤化の大きな原因にもなっている。一方で内分泌機能異常に伴う認知症は、治療可能な認知機能障害に含まれ、早期診断・治療することで改善が見込まれることが知られており、特に高齢者では診断・治療の遅延が認知症症状を加速してしまうこともあるため(Matsunaga et al., Brain Nerve, 2016)、認知症の初期脳内変化について理解し、内分泌機能との関係性を明らかにすることは重要と考えられる。本研究では、高齢者で見られる内分泌機能変化として、コルチゾール(CORT)分泌の概日リズム異常に着目し、アルツハイマー病態の重篤化メカニズムの解析を行った。これまでに応募者は高CORT血症が、脳老化およびシナプス機能障害を誘導し、認知機能低下を引き起こすことを明らかにしてきた。しかしながら、シナプス機能はCORT概日リズムに即して再構成を繰り返すとされており、加齢によるCORT概日リズム低下が、どのような過程を辿りアミロイドβ(Aβ)と共にシナプス再構成経路を阻害し、最終的に認知機能障害を重篤化させるのか、その詳細な分子メカニズムは十分解明されていない。今後、加齢アルツハイマー病モデル動物を用い、加齢に応じて低下するCORT分泌の概日リズムに着目し、アルツハイマー病態を増悪化するシナプス再構成系と神経細胞・ミクログリア内の日内変動遺伝子群との機能的な相関性の解明を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに応募者らは、コルチゾール分泌が低いとされる時間帯(AM10:00-12:00)において、抜歯などによる加齢が促進されたマウスで、過剰にコルチゾールが分泌されることを見つけた。それに伴い脳内での細胞老化マーカーp16Ink4aの発現量が上昇し、ミクログリアマーカーであるIba1の発現量増加が見られることを確認した。このように加齢マウスを用いた評価系において、認知症最大のリスク要因である加齢が脳老化および脳内炎症の亢進を誘導することを明らかにした。加えて、加齢マウスの認知機能について解析を行った。加齢動物の認知機能評価には、Y字型迷路課題を用いた。Y字型迷路課題では、マウスが探索行動時に自発的に異なるアームに入る性質を利用した交替反応を測定することで、空間作業記憶の指標として評価した。加齢マウスでは、若齢期のマウスと比較してアーム総進入回数による自発運動量の加齢性減少が見られ、異なるアームを認識する交替反応による、空間認知正答率の加齢性低下が確認された(Furukawa, Tada et al., Sci Rep., 2022)。
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今後の研究の推進方策 |
加齢アルツハイマー病モデル動物モデル動物(APP-KIマウス)の内側前頭前野前辺縁皮質(mPFC-PrL)シナプス再構成系の日内変動解析を試みる。 (1)シナプス伝達機能日内変動解析 急性脳スライスを時系列に作製し、mPFC-PrL神経細胞での下記電気生理学的解析を行う。 AMPA/NMDA比解析によるグルタミン酸受容体シナプス応答の変動、mEPSC/mIPSC解析による興奮性、抑制性入力のバランス変化、ゴルジ染色によるmPFC-PrL神経細胞スパインの成熟レベルに比例した形態別分類(Stubby/ Mushroom-shaped/ Thin)および形態別スパイン数の測定 (2)シナプス貪食機能日内変動解析 mPFC-PrL神経細胞特異的にGFPタンパク質を導入し、シナプスの可視化を試みる。Iba1染色と組み合わせ、Iba1陽性細胞中に封入されたGFP陽性率を測定することで、ミクログリアのシナプス貪食能について時系列ごとに評価する。また残存するスパイン数をスパイン形態ごとに分類して計測することで、ミクログリアのシナプス貪食選択性について検討する。 上記解析、Aβクリアランス定量および認知行動試験の時系列解析を相関的に展開することで、加齢性CORT分泌概日リズム低下によるシナプス再構成系を介した認知機能障害経路を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた動物行動用の防音室の納入時期延期により、次年度購入予定に変更になったため、当該助成金が発生した。次年度は、当該助成金を加齢APP-KIマウスを用いた各種行動解析結果と因子群との相関解析費として使用する計画である。
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