本研究課題では、老化に伴い、脳内では新規因子が生成され、積極的に視床下部の機能を維持しようとする機序がある、という可能性を検証することを目的としている。これまでに、老化に伴い蓄積する分子の除去や、機能低下をもたらす因子を賦活化させることで個体寿命に影響が及ぼされることや、また、最近では、老化(加齢)過程で積極的に発現を減少させることで、成体脳の機能維持を担う分子シグナルが報告されている。一方、老化過程で視床下部機能を積極的に維持するメカニズムについては、これまで明らかにされていない。これまでに、自由睡眠と睡眠制限下に採取した視床下部検体を用いたRNA-sequencing解析と若齢老齢視床下部背内側部検体を用いたRNA-sequencing解析の結果から、加齢や睡眠制限で発現量が増加する遺伝子群を選定した。その中で、食餌制限で発現量が有意に低下する遺伝子群に絞り込み、加齢、睡眠負荷、そして栄養介入により変化する遺伝子群を選定した。この中で、視床下部あるいは背内側部特異的に発現する遺伝子と脳全体に発現している遺伝子群に分類した。最終年度は、神経細胞培養系を用いて候補遺伝子の細胞生存率への作用を検討した結果、有意な変化が認められる遺伝子を見出した。以上の結果から、研究期間全体を通じて老化過程で脳内に蓄積し、特に、神経細胞の機能に影響を及ぼしうる遺伝子群を見いだすことができた。
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