以下,項目別に述べる. (1)ソーシャルメディア上の情報拡散の第一原理モデルの構築とその解析手法の開発: Twitterがイーロン・マスク氏に買収され,サービス名が「X」に変わって以降,Twitter APIを介したデータの収集が事実上できなくなったため,2023年度はこれまでの研究成果の拡張・検証を主に行った.第一はマタイ効果を取り入れたTwitterのリツイート回数の増分過程のモデルの検証である.提案モデルに基づき,リツイート回数の増分過程の将来予測を行うと実データからずれること,このずれを修正するには(リツイートがさらなるリツイートを呼び込む効果は,リツイートからの時間が経過するほど弱まるという意味での)忘却効果を取り入れる必要があることを確認した.第二は二次元格子状ネットワークにおける強相関近似による情報拡散過程の解析的記述である.強相関近似のもとでは,二次元格子状ネットワークにおける情報拡散過程を陽に解析的に表現できることを発見し,成果をまとめ,複数の学会で発表した. (2)ソーシャルメディア上の合意形成過程と合意結果の数学的特徴の分析: エージェントが隣接エージェントの意見を収集して,自分の意見との重み付き平均をとって自分の意見と置き換えることを繰り返す「プル型アルゴリズム」に関する合意形成過程について考察し,ブロードキャスト型とゴシップ型の中間的に性質を有することを見出した.ただし,ブロードキャスト型と異なり,解析的なアプローチを取ることが難しく,現状では,数値的な確認に留まっている.
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