研究課題/領域番号 |
20K21785
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長尾 大道 東京大学, 地震研究所, 准教授 (80435833)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | データ同化 / 4次元変分法 / マルコフ連鎖モンテカルロ法 / レプリカ交換モンテカルロ法 / 地震波伝播 / 不確実性評価 |
研究実績の概要 |
理工学分野において、物理・化学等の理論に基づくモデルと観測・実験に基づくデータを比較することは、対象の理解を深め、かつその将来予測をする上で基本的なアプローチであるが、近年急速に進んでいる数値モデルの大規模化と観測データの大容量化に応じた比較手法の高度化が急務となっている。大規模モデルと大容量データをベイズ統計学に基づいて融合する計算技術であるデータ同化は、数値モデルからあらかじめ生成した複数のシナリオを観測データが入力されるたびに再構成する「逐次型データ同化」と、数値モデルから生成した単一のシナリオを観測データに適合するように最適化する「非逐次型データ同化」とに大別される。大規模データ同化を実施する場合には、計算機資源や計算時間の制約の観点からも圧倒的に非逐次型データ同化の方が有効であるが、数値モデルのコードに大掛かりに手を加える必要があり、実装の手間の観点から採用が回避される傾向にある。一方、逐次型データ同化は実装の手間が比較的小さく、また数値モデルをブラックボックスのまま取り扱うことも可能であるが、大規模モデルと大容量データを融合するためには大量のシナリオ数を必要とする。 本研究の最終目標は、現実的な計算時間と計算機資源で実行可能な、逐次型と非逐次型を融合したハイブリッド型データ同化手法の開発に挑戦することである。2021年度は、前年度までに開発した地震波動伝播シミュレーションモデルの高速化を行なった上で、非逐次データ同化の代表的手法である4次元変分法を実装することにより、地下構造の物性パラメータの最適化ならびにその不確実性評価を実施可能なコードを開発した。現在、逐次データ同化の一種であるレプリカ交換モンテカルロ法を実装することにより、4次元変分法における反復計算の効率化を図っており、今後のハイブリッド型データ同化手法の確立と実モデルへの適用に向けた見通しが立った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の当初計画では、研究代表者が雇用している研究員に、地震波伝播シミュレーションコードへのデータ同化手法の実装を依頼することになっていたが、本人の都合により、2021年度の上半期に退職した。この開発作業を役務として外注し、また新たな研究協力者を確保することにより、研究計画を実施することはできたものの、予定していたスケジュールからは半年以上遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度中に、地震波伝播シミュレーションコードの高速化ならびにデータ同化手法の実装を達成したが、本研究課題の延長期間となる2022年度は、大型計算機上における数値実験を通じて、ハイブリッド型データ同化アルゴリズムの完成と、実モデルへの適用を実現する。これにより、大規模モデルと大容量データに基づくデータ同化においては、単なる大型計算機の利用だけでなく、数理の観点からのアルゴリズム開発が極めて重要であることを示したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究員の退職に伴い、地震波伝播シミュレーションコードの高速化ならびにデータ同化アルゴリズムの実装が当初計画よりも遅れたため、学会発表および論文投稿については2022年度へ後ろ倒しせざるを得なくなった。次年度へ繰り越した助成金は、本研究課題の成果を学会および学術誌において論文発表するために使用する。また、やや遅れ気味の本研究課題の進捗を加速するため、コード開発の一部を役務として外注することを予定しており、これにも繰り越した助成金を充てる。
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