研究課題/領域番号 |
20K21794
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伊野 文彦 大阪大学, 情報科学研究科, 教授 (90346172)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | トロピカル代数 / 最適化問題 / 高速化 / アクセラレータ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,トロピカル代数系で記述された組合せ最適化問題を,GPU(Graphics Processing Unit)などの計算アクセラレータ上で加速することである.その実現のために,トロピカル代数系に特有の最適化技術を開発し,その計算基盤を最先端の超並列アーキテクチャ上に展開する.また,具体的な応用として,生命情報科学などで頻出する組合せ最適化問題を高速に解くGPU計算手法を開発する.令和2年度は以下の課題に取り組んだ.
まず,遺伝子配列のアライメント問題やグラフの全点対最短経路問題がトロピカル代数上の行列積で解けることから,GPU上で行列積を高速に解く実装の性能を分析した.また,トロピカル代数では加算演算子を通常の最大値関数maxに置換し,乗算演算子を通常の加算演算子に置換することから,通常の行列積をトロピカル代数上の行列積に置換した場合の性能を計測した.結果として,トロピカル代数上の行列積においては,通常の行列積と同様に,タイリングなどのキャッシュ最適化技術が高い性能を達成するために有効であることを確認した.
次に,トロピカル代数上の演算子の性質に着目し,疎行列に対する最適化技術を開発した.具体的には,行列を構成する要素の値が0である場合に,その要素に関連するデータ参照ならびに計算を省くことで高速化を図る.このトロピカル代数に固有の最適化技術を,計算粒度の細かいレベルから粗いレベルまで実現し,もっとも高い効果を得られる粒度を明らかにした.また,その高速化の度合いが,値が0である要素の比率とともに高まることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トロピカル代数系に固有の最適化技術を見出し,その高速化効果を確認できたことは計画通りである.また,トロピカル代数系の問題に帰着することにより,計算量を削減できる最適化問題があることが判明したため,この問題を有望な応用先として取り組めることも分かった.ただし,現在のプログラム記述は,GPUの低水準言語CUDA(Compute Unified Device Architecture)に依存していることから,次年度に向けて高水準なプログラム記述による実現が必要である.このように,核となる最適化技術が今後の課題とともに明らかにできていることから進捗は計画通りである.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画にしたがい,トロピカル代数系に固有の最適化技術を高水準なプログラム記述で実現していく.また,最適化手法に関する成果を国内外で発表し,他の研究者からの意見を反映していく予定である.
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