研究課題
2021年度は、2020年度に示した秘匿通信方式に対して、Groverアルゴリズム以外の方法で、攻撃者が指定する状態の確率振幅の増幅方法を検討した。Groverアルゴリズムでは、直交する状態の重ね合わせの中で、条件を満たす状態の確率振幅をGrover反復操作により増幅し、確率振幅が十分に大きくなった時点で射影測定を行う。しかし、射影測定は物理学的に許容される唯一の測定法ではない。物理学的に許容される一般測定は、射影測定を特殊な場合として含むので、射影測定より有益な情報を得られる可能性があると考えた。そこで、直交していない状態も重ね合わせに含み、位相変化がπではないGrover反復操作を行い、射影測定より制約が緩いPOVM測定を行うGroverアルゴリズムの変形を検討した。しかし、直交状態の重ね合わせの場合より有意な情報を得ることができないことがわかった。また、2020年度に示した秘匿通信方式は擬似ランダム関数を用いており、その古典的・量子的安全性は擬似ランダム関数の衝突発見困難性に依存している。そこで、擬似ランダム関数の実装の一つである倍ブロック長圧縮関数に対する量子アルゴリズムを用いた衝突発見困難性の解析を行った。ランダムオラクルと仮定した圧縮関数を用いた倍ブロック長圧縮関数の出力長をnビットとしたとき、衝突発見の困難性は、古典的には2^(n/2)を超えず、量子的には2^(n/3)を超えない、つまり、これらを達成できれば、古典的にも、量子的にも最も高い安全性(衝突発見困難性)を達成していることになる。しかし、倍ブロック長圧縮関数を圧縮関数と置換で構成した場合、古典的には最も高い衝突発見困難性を達成できるにも関わらず、量子的には、2^(n/4)の困難性しか達成できない場合があることと2^(n/3)の困難性を達成するための十分条件を明らかにした。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
The 18th IMA International Conference on Cryptography and Coding, (IMACC 2021), Lecture Notes in Computer Science
巻: 13129 ページ: 161-175
10.1007/978-3-030-92641-0_8