研究課題
本研究では、すべての神経細胞に名前がつけられていて神経系全体の活動と行動との関係の理解に最適なモデル生物として線虫C. elegansを用いた。この実生物の脳機能を光遺伝学で制御する方法をコンピューターが強化学習により習得することを目指した。成果の概要は以下の通り。1)線虫の行動をCCDカメラで記録し、位置と姿勢変化の時系列を数値化した。このデータを用いてニューラルネットワークを用いた確率的生成モデルMDN-RNNを学習させ、過去の時系列から次の位置・姿勢を確率的に予測するモデルを作成した。この際、感覚神経の光刺激をランダムシーケンスで行い、刺激に対する応答もモデル化した。2)このMDN-RNNを用い、Q-learningによる強化学習を行い、実験者が設定した位置に到達させるための光刺激パターンを学習させた。3)学習した強化学習モデルを用い、実際の線虫に適切なタイミングで光刺激を与えさせることにより、線虫が任意の目的地に向かうよう制御することに成功した。4)(最終年度成果)微小流路に固定した線虫で全脳イメージングを行って神経活動時系列データを取得した。このデータを用いて、各シナプスについて過去1分間のプレシナプスの神経活動からポストシナプスの次の時点での活動を確率的に予測するモデル、gKDR-GMMを学習させた。これにより、観測された全神経の過去時系列から任意の神経の次の活動を予測すること、および全神経の活動を自律的に生成することに成功した。5)実線虫の塩走性学習において変化するシナプスを特定し、プレシナプスでのプロテインキナーゼC活性とシンタキシンのセリン65のリン酸化によるシナプス伝達物質の放出量の変化がシナプス伝達を興奮性⇔抑制性と変化させることが、学習による行動変化の基盤であることを見出した。これら分子の活性を人為的に変えることにより学習が変化する。
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