まず、精油を混合したときの匂い印象をマススペクトルから推定した。この推定にはマススペクトルをオートエンコーダで次元圧縮して、その結果を多層パーセプトロンに入力して匂い記述子に関するスコアの推定を行った。その結果、レモンとシナモンリーフを1:1で混合して記述子"Sweet"のスコアがどう変わるかを推定した。混合精油の甘さはレモンと変わらずシナモンリーフより甘いという推定結果が得られ、24人の被験者に対して官能検査を行い検定した結果、推定結果と同様の結果が得られた。 次に言語表現から匂い印象予測を行うことができるのかを検討した。マススペクトルデータをオートエンコーダで次元圧縮し、その結果を自己組織化マップにより2次元マップに変換する。そして、マップの各格子には各匂い記述子のラベル付けをしておく。格子作成には2345種類の単一香気分子を用いて学習させた。単一の香り記述子及び2つの香り記述子の場合について調べた結果、同一の格子には類似した香り記述子を持つ香気分子が集まることが確認され、さらに官能検査によって格子位置と香りの類似性の関係が確認された。これらの結果より与えられた香り記述子に対応するマススペクトルを抽出可能であることが示された。 最後に嗅覚ディスプレイについて検討した。嗅覚ディスプレイでは、マイクロディスペンサで射出した香料を弾性表面波デバイスで霧化して体験者に香り提示を行う。マイクロディスペンサの発熱を抑え低消費電力で駆動するためにh型駆動回路を製作した。さらに電気浸透流ポンプを用いマイクロディスペンサに香料を安定に供給できるようにして液滴射出条件を最適化した。その後ウェラブル嗅覚ディスプレイにこの方法を適用してその動作を安定化させ、応用例として数値流体シミュレータと組み合わせて大気中の不規則な濃度変動を体験者に提示する実験を行い改善効果を確認した。
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