非自明な数理モデルとして検証するのが難しいと思われる心の内的時間の獲得の原理に関して、本研究では時系列パターンをリカレントニューラルネットに学習させる状況で、その解明を試みた。非線形力学系の多様な自発活動を計算資源として活用するレザバー計算はリカレントニューラルネットワークの一種であるが、非自明な自発活動を示し、その活動状態がカオスと非カオスの境目で課題実行のための計算能力が最大になるという知見がある。これは、自発発火活動が情報処理能力と関係していることを意味し、生理学的観点からも興味深い。本研究では、レザバー計算が次の2つ実験的知見 (1) 非自明な自発活動を示し、その特性は学習能力と関係がある (2) 事象パターンの系列再生など時間的な課題を学習可能、に着目し、その枠組みを内的時間獲得のメカニズムを探る研究として活用することを試みた。初年度から前年度までは、記憶と演算の両方を必要する課題を、入出力関係が線形分離可能・不可能な場合とでパフォーマンスの違いがあるかどうかを調べた。入力信号の入るニューロンの割合とランダムニューラルネットワークのリヤプノフ指数の関係を動的平均場理論を用いて解析的に調べ、レザバーとして機能するには入力信号の強度が十分強くないといけないこと、また入力割合はある臨界割合より大きくなくてはいけないことなどを示した.本年度は、結果を論文にまとめ、さらにニューロンのどの部分の非線形性が記憶タスクと非線形演算能力に効いているのか、数値計算により調べた。意外な結果として、"Edge of chaos"という状態で性能が最大化する領域ではニューロンの非線形性が何処にあるかには依存しないことが判明した。自発発火と演算能力(記憶と非線形演算)を適切に切り分けて理解できたことは、内的時間獲得の原理の基礎理論の構築にとって意義深いと考えられる。
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