動物の体表模様など、生物に見られるパターンを観察するとき、我々は無意識のうちにそれらを識別し、分類している。パターンの違いは誰の目にも「見ればわかる」ように感じられるため、「他種とまったく異なる模様パターン」が観察された場合には、新種/別種であることを示す強い根拠であると考えられる傾向にあった。しかしながら、こうした直感的な「模様の見方」が妥当であるかどうかについて、これまで明示的な検証がなされているとは言い難い。本研究課題では、「模様を見ない」(=主観・直感に頼らない)、数理モデルに依拠した模様パターン定量化の手法を確立するとともに、模様解析データと系統解析データとを照らし合わせることでパターンモチーフ間に存在する関係性を可視化し、我々の直感的なパターン識別・分類体系に潜む多様性認知バイアスを明らかにすることを目指している。人為的な種々の模様パターンデータを反応拡散モデルを用いて大規模に生成しこれをもとに機械学習を行うことで自然界に見られるパターンを定量化する手法の可能性について検討を進めた。また、海産および淡水産の魚類数千属を対象として、斑点、縞模様、目玉模様等、多くの魚類中で頻出し直感的にも識別が容易であると考えられるパターンモチーフに特に着目しながら、現実に見られる体表模様パターンの解析を行った。さらに、模様パターンとゲノム情報とを合わせた解析により、グループ内・グループ間の模様パターンの共通性や差異と集団構造との関連について知見を得るとともに、一見まったく異なるように見える模様パターンの間に機構的な関連性が存在する可能性を明らかにした。
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