本研究の目的は,「サーモグラフィは温度計測技術である」という固定観念を崩し,より多様な計測を可能にするコンピュテーショナルサーモグラフィを萌芽させることであり,遠赤外光計測に基づく形状計測や光学特性計測などへの応用に展開する.サーモグラフィは熱を直接的に計測しているわけではなく,遠赤外光を通して間接的に温度を計測している.そこで,コンピュテーショナルフォトグラフィ分野で発展してきた照明光学系やイメージング光学系の工夫によって,従来のサーモグラフィでは計測対象となっていなかった情報を計測する.これを実現するため,本研究では,計測システムの構築,観測モデルの構築,計測手法の開発という工程で研究を進めた.最終年度は,これまでに実験によって実証した方式の数理的モデルを設計し,環境に依存する外乱やカメラにおける熱ノイズ,量子化誤差などによる性能への影響について細かな解析を行った.また,広帯域なタングステン光源を用いた平行光学系を作成し,加工した金属板を開口とすることで様々なパターンを遠赤外領域で投影可能なプロジェクタを構築した.例えば,空間的に高周波な縞パターンを長時間投影することで,熱拡散の影響を空間的に解析可能になることがわかった.研究期間全体を通じた成果として,二波長差分計測を応用し,二組の二波長計測から大気中における遠赤外光の減衰量を計測することで,熱物体までの距離を推定する手法を構築した.特長として,パッシブ方式にて,数メートルから数十メートルにある比較的高温な物体までの距離と物体温度を推定可能な手法を実現した.
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