細胞内のオルガネラや生体分子などの特性や動態を測定するには、GFPなどの蛍光分子を細胞内の生体分子にタグして観測する「蛍光顕微鏡イメージング」がよく使われている。しかし、これらの方法ではタグされた生体分子が存在する領域の要素の分布や動態について知ることはできるが、それ以外の細胞内領域は観測できていないため、その構成要素の分布や動態を解析することはほとんどできていない。また、タグされた生体分子が、どのようにして観測できていない領域に存在する要素と相互作用しているのかは、ほとんど明らかになっていない。 本研究では、蛍光顕微鏡イメージングにて観測できていない細胞内領域の物理情報、特に「屈折率」と「吸光係数」を再構築することを計画している。蛍光分子が発した光が、細胞の複雑な形状や細胞内のオルガネラなどの障壁により、屈折/反射/吸収などの光学的効果を起こすため、実際 の画像は、細胞の真の像から多少なりとも違って写っていることがわかっている。具体的な目標として、これらの物理変数をベースとして細胞シミュレーションの画像を生成し、実際の画像に変数フィッティングを行ない、観測できていない領域における細胞内の各オルガネラに対応する屈折率と吸光係数の分布を再構築することを目指していた。 本研究の具体的な成果として、以下の3つを挙げる。 (1) 細胞モデリング:HeLa細胞の蛍光画像を用いて、光学特性(屈折率、減衰係数)を組み込んだ細胞モデルを構築した。 (2) 生物画像シミュレーション:光学的要素だけでなく、熱学的要素の一部を含めた顕微鏡シミュレーションの実装を行った。 (3)機械学習による変数フィッティングをしてパラメータの再構築を計画していたが、よりシンプルな方法を思いついたので、代わりにモデル駆動型の解析方法を実装し、細胞内の屈折率分布及び減衰係数の再構築に成功した。
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