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2022 年度 実施状況報告書

ランドスケープモデルによる健康・疾患状態の可視化と予測

研究課題

研究課題/領域番号 20K21837
研究機関国立研究開発法人理化学研究所

研究代表者

石川 哲朗  国立研究開発法人理化学研究所, 情報統合本部, 客員主管研究員 (90824160)

研究期間 (年度) 2020-07-30 – 2024-03-31
キーワードランドスケープ / 疾患の多様性 / 病態分類 / 予後予測 / 層別化 / 可視化 / 情報疫学 / インフォベイランス
研究実績の概要

一般に高次元で扱いが困難な健康・医療データを教師無し学習と同様にランドスケープモデルを用いて次元削減することで患者やサンプルを層別化し、新たなリスク群の発見や病態進行、予後を予測することで先制医療や予防医療、トリアージに活用するためのアルゴリズムの開発を行なっている。
令和4年度はこれまで取り組んで来た睡眠ログデータ、心不全の解析以外にも、メタボロームデータや皮膚疾患などへと適用範囲を広げている。特に力を入れたテーマは、世界的なパンデミックが社会問題である新型コロナウイルス感染症(COVID-19)である。その研究を行うため、国内の大規模データとしては国立国際医療研究センターが中心となって観察研究のために構築したCOVID-19 REGISTRY JAPANデータの解析を行なった。一方、国外の大規模データとしては、イスラエル政府やメキシコ政府が公開している疫学データにアクセスするとともに、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が収集しているサーベイランスの公開データを用いて集団レベルの流行の拡大・収束をランドスケープで予測する手法の開発を実施した。また、CDCのアクセス制限付き詳細症例データを研究申請の上で入手し、個人レベルの重症化リスク判定や生存・死亡アウトカムの予後予測を層別化を行うことで高精度化する方法論を検討して来た。
さらに、Google社が公開しているGoogle Trendのデータを用いて、疫学を情報空間上で展開するインフォデミオロジーの考え方を取り入れ、感染症流行動向調査である疫学サーベイランスを仮想的に実現するインフォベイランスにより、集団レベルでの人々の情報行動からマクロな状態を識別することでミクロな感染症の流行動態を間接的に読み取れることを示した。エネルギー地形を描画することで状態を可視化するにとどまらず、ランドスケープの発想や射程、視座をより深化させた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

令和4年度はアクセスできるデータがさらに増したことや多くの共同研究が進展したことから、成果物として6報もの査読付き原著論文を世に出すことができた。招待を受けて総説記事を2本執筆する機会にも恵まれ、予想以上に多くの出版物を上梓する結果を実現できた。さらに、国際シンポジウム1件を含む招待講演3件を始めとした8件の学会発表を実施して、ソリッドな結果を報告するだけでなく研究途上のフレッシュなアイデアを紹介することで他のパネリストや聴衆と大いに議論を行えた。また、国際共同研究の打ち合わせもたびたび行い、当研究課題の成果や進捗報告に対する関心の強さと話題性の大きさは目を見張るものがあった。ランドスケープを用いた解析や応用に対する期待や可能性の大きさをますます感じるとともに、ヘルスケアや医療、公衆衛生、予防医療の現場で求められているニーズや潜在的な発展の方向性に対する理解をさらに深めることができた。

今後の研究の推進方策

健康・疾患状態を表現するランドスケープモデルの基盤となる論文を執筆することを令和5年度の目標とする。高い関心と期待に応えるため、提案している方法論の普及期に入って来ていることを強く実感する。そこで、解析ツールとして多くの人に使ってもらえるようなパッケージないしはワークフローを構築し、公開することを検討している。これにより、ダイレクトに共同研究をしていない範囲にまで利用者を拡大できれば、これまで以上に多くの研究者や開発者に実際に我々の手法を試してもらい、利活用してもらえる道が拓ける。そのようにして、解析ツールのユーザーから有益なフィードバックをもらえれば、さらなる発展や応用が加速するはずである。
ただし、まだいくつか解決すべき課題も積み残されている。より情報量の多い忠実な状態配置を可視化できる改良策の検討、より高次元のデータへの対応や、離散値と連続値の両方を扱えるように柔軟性を持たせられないかはそれぞれ大きな課題である。しかし、これらの課題は理論を拡張したり、別の方法論と組み合わせたりすることで部分的に解決を図ることができると構想している。そのためには、共同研究者とアイデアを出し合い、議論を進めるとともに具体的に手を動かして思いついているものの検証が待たれるアイデアを実装して実験して多くの試行錯誤を繰り返すことで、現実的なソリューションの突破口を必ず見出せると確信している。ランドスケープのアナロジーで言えば、トラップが多い複雑な地形の上を一直線に状態遷移しようとして立ち塞がる障壁でスタックするのではなく、遠回りをしてでも最適な回り道を見つけられれば困難を克服して望ましい目的地に辿り着けるはずである。そのような急がば回れの研究を実直に推進する。

次年度使用額が生じた理由

令和4年度は学会参加が招待講演もしくは共著者による発表が多く、またCOVID-19感染症感染拡大のために研究打合わせ、国内および国際会議がオンラインまたはハイブリッド開催となったため、旅費が発生しなかった。コロナ下のリモートワークを中心とした新しい働き方の模索を続ける中で、当初予定していたオンプレミスの計算機ワークステーションの導入を見送ったため。次年度は漸くコロナが収束したことを受け、可能な範囲でオンサイト開催の学会や研究集会の現地に出向いて参加して研究成果を積極的に発表するとともに、オンプレミスもしくはクラウド型の計算機環境を整備することでさらなる研究推進に利用することを予定している。

  • 研究成果

    (20件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)

  • [国際共同研究] University of California, Los Angeles(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      University of California, Los Angeles
  • [国際共同研究] Eberhard Karl University of Tubingen(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      Eberhard Karl University of Tubingen
  • [国際共同研究] University of Luxembourg(ルクセンブルク)

    • 国名
      ルクセンブルク
    • 外国機関名
      University of Luxembourg
  • [国際共同研究] Finnish Institute for Health and Welfare/BC Platforms(フィンランド)

    • 国名
      フィンランド
    • 外国機関名
      Finnish Institute for Health and Welfare/BC Platforms
  • [雑誌論文] Machine learning approach to stratify complex heterogeneity of chronic heart failure: A report from the CHART‐2 study2023

    • 著者名/発表者名
      Nakano Kenji、Nochioka Kotaro、Yasuda Satoshi、Tamori Daito、Shiroto Takashi、Sato Yudai、Takaya Eichi、Miyata Satoshi、Kawakami Eiryo、Ishikawa Tetsuo、Ueda Takuya、Shimokawa Hiroaki
    • 雑誌名

      ESC Heart Failure

      巻: Early View ページ: 1-8

    • DOI

      10.1002/ehf2.14288

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Antenatal screening timeline and cutoff scores of the Edinburgh Postnatal Depression Scale for predicting postpartum depressive symptoms in healthy women: a prospective cohort study2022

    • 著者名/発表者名
      Tanuma-Takahashi Akiko、Tanemoto Tomohiro、Nagata Chie、Yokomizo Ryo、Konishi Akiko、Takehara Kenji、Ishikawa Tetsuo、Yanaihara Nozomu、Samura Osamu、Okamoto Aikou
    • 雑誌名

      BMC Pregnancy and Childbirth

      巻: 22 ページ: 527:1-10

    • DOI

      10.1186/s12884-022-04740-w

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Development and validation of machine learning prediction model for post-rehabilitation functional outcome after intracerebral hemorrhage2022

    • 著者名/発表者名
      Sonobe Shinya、Ishikawa Tetsuo、Niizuma Kuniyasu、Kawakami Eiryo、Ueda Takuya、Takaya Eichi、Makoto Miyauchi Carlos、Iwazaki Junya、Kochi Ryuzaburo、Endo Toshiki、Shastry Arun、Jagannatha Vijayananda、Seth Ajay、Nakagawa Atsuhiro、Yoshida Masahiro、Tominaga Teiji
    • 雑誌名

      Interdisciplinary Neurosurgery

      巻: 29 ページ: 101560~101560

    • DOI

      10.1016/j.inat.2022.101560

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Detecting time-evolving phenotypic components of adverse reactions against BNT162b2 SARS-CoV-2 vaccine via non-negative tensor factorization2022

    • 著者名/発表者名
      Ikeda Kei、Nakada Taka-Aki、Kageyama Takahiro、Tanaka Shigeru、Yoshida Naoki、Ishikawa Tetsuo、Goshima Yuki、Otaki Natsuko、Iwami Shingo、Shimamura Teppei、Taniguchi Toshibumi、Igari Hidetoshi、Hanaoka Hideki、Yokote Koutaro、Tsuyuzaki Koki、Nakajima Hiroshi、Kawakami Eiryo
    • 雑誌名

      iScience

      巻: 25 ページ: 105237~105237

    • DOI

      10.1016/j.isci.2022.105237

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Proteogenomic landscape and clinical characterization of GH-producing pituitary adenomas/somatotroph pituitary neuroendocrine tumors2022

    • 著者名/発表者名
      Yamato A, Nagano H, Gao Y, Matsuda T, Hashimoto N, Nakayama A, Yamagata K, Yokoyama M, Gong Y, Shi X, Zhahara SN, Kono T, Taki Y, Furuki N, Nishimura M, Horiguchi K, Iwadate Y, Fukuyo M, Rahmutulla B, Kaneda A, Hasegawa Y, Kawashima Y, Ohara O, Ishikawa T, Kawakami E, Nakamura Y, Inoshita N, Yamada S, et al.
    • 雑誌名

      Communications Biology

      巻: 5 ページ: 1304:1-14

    • DOI

      10.1038/s42003-022-04272-1

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Statistical Analysis of Mortality Rates of Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Patients in Japan Across the 4C Mortality Score Risk Groups, Age Groups, and Epidemiological Waves: A Report From the Nationwide COVID-19 Cohort2022

    • 著者名/発表者名
      Baba Hiroaki、Ikumi Saori、Aoyama Shotaro、Ishikawa Tetsuo、Asai Yusuke、Matsunaga Nobuaki、Ohmagari Norio、Kanamori Hajime、Tokuda Koichi、Ueda Takuya、Kawakami Eiryo
    • 雑誌名

      Open Forum Infectious Diseases

      巻: 10 ページ: ofac638:1-7

    • DOI

      10.1093/ofid/ofac638

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] インフォベイランスで感染症の多様性とダイナミクスを読み解く2022

    • 著者名/発表者名
      石川哲朗
    • 雑誌名

      実験医学

      巻: 8 ページ: 2102-2108

    • DOI

      10.18958/7061-00001-0000202-00

  • [雑誌論文] データ駆動型医科学による疾患予防,治療選択,予後予測2022

    • 著者名/発表者名
      大矢めぐみ, 華井明子, 石川哲朗, 川上英良
    • 雑誌名

      Precision Medicine

      巻: 5(12) ページ: 1092-1095

  • [学会発表] 併存疾患の時系列統計評価に基づくネフローゼ症候群の相乗的危険因子の解明2023

    • 著者名/発表者名
      千田克幸, 石川哲朗, 華井明子, 花之枝彩香, 柏木佑介, 佐藤潤弥, 川上英良
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] 健康・医療データの次元からひもとく2023

    • 著者名/発表者名
      石川哲朗
    • 学会等名
      第7回理論免疫学ワークショップ
    • 招待講演
  • [学会発表] デュピルマブによるアトピー性皮膚炎患者の治療効果の層別化と医療AIモデルの構築2022

    • 著者名/発表者名
      芦崎晃一, 石川哲朗, 野村有子
    • 学会等名
      第121回日本皮膚科学会総会
  • [学会発表] 教師なし学習による地域クラスタリングと育児困難感との関連の解析2022

    • 著者名/発表者名
      華井明子, 川上英良, 石川哲朗, 加藤真奈美, 中西未来子, 藤井誠, 管生聖子, 遠藤誠之
    • 学会等名
      LIFE2022 第21回日本生活支援工学会大会 日本機械学会 福祉工学シンポジウム2022 第37回ライフサポート学会大会
  • [学会発表] マルコフ決定過程とクラスタリングを用いた患者集団ごとに最適な治療法の予測2022

    • 著者名/発表者名
      神前政智, 石川哲朗, 大矢めぐみ, 古関恵太, 我妻叶梧, 川上英良
    • 学会等名
      東日本研究医養成コンソーシアム第12回夏のリトリート
  • [学会発表] 出産前後における子育てへの心理的適応と栄養摂取状況の変化2022

    • 著者名/発表者名
      華井明子,石川哲朗,藤井誠,渡邊浩子,松崎政代,管生聖子,遠藤誠之,川上英良
    • 学会等名
      第7回日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会年次学術集会
  • [学会発表] インフォベイランスで描き出す感染症のダイナミクス2022

    • 著者名/発表者名
      石川哲朗
    • 学会等名
      異分野融合研究における細胞ダイバーシティの数理科学的解析に向けて
    • 招待講演
  • [学会発表] Modeling the diversity of COVID reactivity and symptoms2022

    • 著者名/発表者名
      Tetsuo Ishikawa, Eiryo Kawakami
    • 学会等名
      The 8th RIKEN-KI-SciLifeLab Symposium
    • 国際学会 / 招待講演

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公開日: 2023-12-25  

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