研究課題/領域番号 |
20K21837
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
石川 哲朗 国立研究開発法人理化学研究所, 情報統合本部, 客員主管研究員 (90824160)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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キーワード | ランドスケープ / 健康状態 / 疾患 / 時系列 / 層別化 / 状態遷移 / 予測モデル / サロゲートモデル |
研究実績の概要 |
健康・疾患ランドスケープは健康から疾患に至る病態進行のさまざまなルート、あるいは疾患から寛解や健康に近い状態に回復する過程において取り得る状態を識別し、状態の出現頻度からエネルギー地形を再構成する。時事刻々と変化する状態の記述から遷移パターンの特徴的な動態を表現できる可視化の強みをもつ。さらに状態発展の予測を見据えたアルゴリズム開発と発展を継続している。 令和5年度はこれまで取り組んで来た公衆衛生や疫学、インフォベイランスにより集積された公共データの解析に加えて、人工関節置換術後の関節周囲感染を血液化学データを用いてモニタリングする手法の開発、ワクチン接種後の副反応の種類および時間経過を時空間パターンとして捉えるための次元削減手法の精査、ゲノム編集のためのCRISPR/Cas9のターゲット候補を複数の指標の組み合わせで表される状態とみなしてその中から効率的に絞り込むアルゴリズムの自動化、生物医科学領域の現象を因果モデルからボトムアップ的に構築するアプローチとサロゲートモデルによるトップダウン的なアプローチの融合により圏論的なフレームワークで状態遷移モデルとして記述する方法の検討、妊産婦の抱える子育ての困難をモニタリングしたデータから不安やうつなどの特性をスクリーニングするための説明可能AIとクラスタリングを組み合わせたハイブリッドなアプローチの展開、そして、アトピー性皮膚炎の治療経過の個人差を層別化して生物学的製剤が奏功するかどうかを予測するモデルの開発に成功するなどの成果を積み上げている。 このように、多様で階層の異なるレイヤーにおける現象や問題群を個別の各論として差異化せず、統一的にエネルギー地形の切り口から捉え直すことで、割り当てられた状態の時間発展則としての描像を得る。ランドスケープ上の状態が辿るトラジェクトリーのパターンを可視化する有効性をますます高めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和5年度は物理学の理論に根差したオリジナルのイジングモデルに根差したエネルギーランドスケープのみならず、概念的な拡張を行うことと共同研究先を新規開拓できたためこれまで以上にさらに幅広い応用先を見出した結果、常識的な既成概念にとらわれない自由な発想でコラボレーションが進められた。その成果として、6件の査読付き英語論文を上梓するとともに、招待講演4件と国際学会2件を含む10件の学会発表を行うことができた。そのうち特にインパクトが高いと所属機関に認められた成果については3件のプレスリリースを打つ運びとなり、アウトリーチ活動を通じて研究成果を強く発信することができた。また、ランドスケープモデルを応用した複数の共同研究プロジェクトが走っており、論文投稿の一歩手前に近づいているものが複数あり、それ以外にも解析を進めて良好な結果が得られている共同研究も増えてきている。これらの顕在化した成果と水面化で着々と進んでいる研究の達成状況には目を見張るものがある。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に講演演者として招待された学会でエネルギー地形を主題においた企画シンポジウムが開催された。近年、さまざまな分野でランドスケープの考え方を用いたデータ解析が応用・展開されており、それぞれの領域の第一線で活躍されている研究者が集結して議論を行う大変貴重な機会があった。そこでは、会場に入りきらないほど駆けつけた大勢の聴衆に向けて互いの成果を報告し合うだけでなく、コメンテーターの先生によるアドバイスやサジェスションにより今後のさらなる展望まで議論することができたことが非常に大きい。この手法に対する分野の垣根を超えた関心と期待の高まりとして、多くの推進の方策が検討され得る。状態の識別から予測、さらにその先の展望として介入による状態の制御といった野心的だが実現すれば非常にインパクトの大きなチャレンジまで見据えることができる。すでに集め終わったデータの後方視的な振り返りによる健康・疾患の履歴の状態表現としてだけでなく、前方視的でプロアクティブなデータ解析により積極的な予防医療や先制医療に向けた治療・介入の選択やタイミングの意思決定を支援できるツールを目指して手法の完成度をさらに高めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和5年度は学術会議への参加が招待講演や共著者による発表が中心となり、またオンライン会議システムの普及に伴い、従来のオンサイトで予定されていた研究打ち合わせや国内外の学術会議がオンラインまたはハイブリッド形式で開催されため、旅費が発生しなかった。そして、コロナ後に定着したリモートワークの必要性から、当初計画していたオンプレミスの計算機ワークステーションの導入を今年度も見送ったため。次年度は、社会がポストコロナの段階に本格的に移行し、研究活動が従来の水準に戻りつつあることを受け、可能な限りオンサイトでの学術会議や研究集会に積極的に参加し、研究成果を発表して議論を深めるとを計画している。さらに、オンプレミスまたはクラウド型の計算機環境の整備を早急に進め、これを研究推進に活用することでより効率的かつ効果的な研究活動を目指す。
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