研究課題
遺伝情報を正確に娘細胞に伝達するためには、S期のゲノム複製とそれに続く分裂期での姉妹染色分体の均等分配が必須である。ゲノムDNAの大部分はS期で複製を完了するが、高度な繰り返し配列を含むセントロメア領域、テロメア領域や脆弱部位(fragile site)はG2/M期においても複製が継続されている。複製直後のこれらの染色体領域は、高度にDNAが絡まり合った状態(catenated)であり、正確な染色体分配には、DNAの“絡み”が解消(decatenation)される必要がある。正常細胞では、Catenated DNAはDNAヘリカーゼ活性をもつ分子(BLMやPICH)によってコートされ、ultra-fine bridge (UFB)構造が形成される。分裂期が進むと、Ⅱ型トポイソメラーゼがUFB構造に取り込まれて、DNAの“絡み”が解消されるとUFB構造も消失することで、正常な染色体分配が完了する。我々は最近、電離放射線照射後の分裂期細胞のセントロメア間にUFB構造が発達することを見出した。しかし、UFB構造は極めて動的な構造であり、従来の電子顕微鏡による観察が困難であったために、その超微形態構造は不明のままである。本研究では、これらの分裂期UFB構造の超微形態構造の形態特性を明らかにすることを研究目的としている。2022年度には、ヒト網膜色素上皮細胞株であるhTERT-RPE1細胞の集束イオンビーム-走査電子顕微鏡(FIB-SEM)の観察プロトコルの改良を行い、安定して、放射線照射後の3次元での細胞微細形態観察が可能になった。BLM、PICH遺伝子と蛍光遺伝子との融合遺伝子をhTERT-RPE1細胞株に導入したところ、間期核での発現を認めたものの、分裂期においては発現が抑制されていた。このため、3D-CLEMによるUFB構造の直接的な観察には至らなかった。しかし、UFB構造の形成に分裂期チェックポイント分子BubR1が必要であることの新たな知見を得た。
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