車載型の低コストGNSS受信機を用いた高密度な水蒸気観測網構築の可能性検討のため,電子基準点との比較による天頂大気遅延量推定精度と誤差要因の評価,高層気象観測との比較による可降水量推定精度の直接検証,並びに車載状態における誤差評価の順に研究を進めた.令和4年度は,低コストシステムによる可降水量推定結果の改善のため測量級システムとの短基線解析を行い,低コストアンテナの位相中心変動の相対補正値の導出を試みた.しかし,得られた相対補正値ではバイアス誤差の解消に至らなかった.次に,気象庁松江地方気象台に設置した低コストシステムによる観測を継続し,国内で観測される可降水量の範囲をほぼ網羅する推定値を得て,高層気象観測データを用いた直接検証を行った.その結果,近接する電子基準点データによる可降水量推定値と比較して,若干のバイアス誤差を除き同等の精度を有することを確認すると共に,低コスト受信機の制約から利用可能なGPS衛星数が減少する場合も,GLONASS衛星を追加したマルチGNSS環境により精度が維持されることを示した.また,連続した複数日の車載実験を行い,キネマティック精密単独測位により天頂大気遅延量を算出し,スタティック精密単独測位による近接三箇所の電子基準点における天頂大気遅延量と比較した.車載実験では,衛星数確保のためマルチGNSSが必須であった.夜間等の停車時には近接電子基準点間のばらつきの範囲程度で合致したが,走行時間帯は,特に走行状況の変化が著しい場合に位置推定精度と連動する大きな変動が見られた.以上より,車載型の低コストGNSS受信機システムによる良好な精度は現時点で確認できていないが,固定観測点の増加による高密度観測網の構築には十分活用できることを示した.今後,みちびきの補強信号等の利用も検討していきたいと考える.
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