大気エアロゾル粒子は、雲凝結核 (CCN) として作用することで放射収支に影響を与える。CCN数濃度を決める要因として気体分子からの新粒子生成が鍵となる。本研究では、新粒子生成の新しい検出方法およびデータ解析方法の開発に取り組んだ。東京都立大学では、超微小凝縮粒子カウンタ (UCPC) と凝縮粒子カウンタ (CPC) の性能評価、および粒子成長理論モデルの構築を行った。産業技術総合研究所では、粒子径増幅型粒子カウンタ (PSM) および粒子帯電率測定装置の開発を実施した。 2020年度は観測装置の開発・性能評価およびモデル構築を行った。本モデルは、核生成、凝集、凝縮・蒸発などのプロセスを計算可能であり、化学種は二成分を考慮することができる。最終年度の2021年度は、つくばの産総研構内において上記装置を用いた実大気観測を2021年9月29日~10月12日に行い、概ね良好なデータを得ることに成功した。観測期間中、粒径10 nm以下において粒子数濃度の増加と粒子帯電率の平衡状態からの減少が定常的に見られた。ただし、粒子が急激に成長する様子は見られなかったことから、当初計画で対象とした遅い粒子成長を捉えたものと解釈できる。10月1日にはつくば上空を台風が通過し、バックグラウンドのエアロゾル濃度が大きく低下した。台風通過後には粒径10 nm以下で粒子帯電率が平衡状態に比べて有意に高いイベントが観測された。これはイオン誘発核生成によるものと推定される。 研究期間全体を通じて、粒子計測装置の開発・性能評価、モデル構築、大気観測を実施し、当初掲げた目標を概ね達成できた。観測期間は限られていたが、本研究の主たる対象である遅い粒子成長イベントの検出に成功した点は、今後の研究につながる重要な成果である。今後、データ解析を精緻化することで学会発表および学術誌論文への投稿を目指す。
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