研究課題/領域番号 |
20K21859
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
蔭山 健介 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (30272280)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 微生物 / アコースティック・エミッション / 発泡 / 発酵 / エレクトレット |
研究実績の概要 |
1. 前年度に開発したECSを用いた微生物AE測定プローブを用いて,木桶内のもろみのAE測定を行い,深さによる温度とAEの挙動の差異を調べた。その結果,もろみの温度は深さが異なってもほとんど差は無いのに対して,AEは発酵開始時は下部でAEが多数発生した後,下部でのAEは減少して上部のAE発生が増加する傾向を示した。これは,もろみ内部の発酵速度は均一ではないことを示している。すなわち,AEを用いることで温度などの従来の手法では得られなかった微生物の活動(発酵)の分布を測定できる可能性を見出した。 2. 照明を設置した恒温室において,ラン藻の培養容器を設置し,容器内に複数のECSを設置してAE測定を行った。その結果,照明点灯時に活発にAEが発生した。また,AEの発生は点灯してから1,2時間後に活発になり,消灯後1時間程度AEの発生が継続した。これは,光合成により生じた溶存酸素が増加したことでセンサ周辺で気泡が生成される際にAEも生じたと考えられる。 3. 三重県のミドリムシの屋外培養槽においても,複数のECSを設置してAE測定を行った。その結果,日中に多数のAEが検出され,CO2の施用量との関連も見出した。また,モーターの動作音など多数のノイズも検出されたが,超音波周波数帯域で,単一のセンサでのみ検出される信号波形をAEと判定することでこれらのノイズの影響を大幅に低減することができた。 4. イースト菌と砂糖を水と混合した培養液において,上記と同様のAE測定を行った。その結果,イースト菌の発酵に伴いCO2が発生すると多数のAEが検出された。そして,沈殿したイースト菌を攪拌した時,AEの発生頻度は増加し,エアレーションを行うとAEの発生頻度は低下した。このことから,AEの発生挙動をモニタリングすることでイースト菌の発酵速度をリアルタイムに測定できる可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラン藻の光合成に伴うAEを検出することに成功しており,さらにミドリムシについても同様の成果が得られている。また,イースト菌の発酵でもAE測定を用いた発酵制御の可能性を見出しており,当初の計画で予定されていたものと同等の成果を上げている。
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今後の研究の推進方策 |
1. ラン藻のAE測定において,透明の培養槽に複数のECSを設置して,ECS周辺に発生する気泡を観察することで測定位置によるAE検出量の差が生じる原因を調べる。そして,ラン藻のAE測定と同時にラン藻の増殖を定量評価し,光量,温度の変動がAEの発生挙動とラン藻の増殖量に及ぼす影響を調べることで,AE測定を用いたラン藻の培養制御の可能性を検証する。 2. パン生地に複数のECSを取付,イースト菌を用いたパン生地の発酵時のAE測定を行う。そして,液中に限らず固体中の発酵にともなうガス生成に起因するAEの検出を試みる。AEが検出できた場合,発酵によるパン生地の膨張量とAE発生挙動との関連を調べ,AE測定を用いたパンの発酵制御の可能性を探る。 3. 発酵温浴で使用されるおが粉にぬかを混合させることでおが粉の発酵時におけるAE測定を行う。そして,高温中の発酵によるセルロースの分解に伴うAEの検出を試みる。
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