研究課題/領域番号 |
20K21860
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新里 宙也 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (70524726)
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研究分担者 |
山下 洋 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(長崎), 主任研究員 (00583147)
鈴木 豪 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(長崎), 主任研究員 (30533319)
亀山 宗彦 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (70510543)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | サンゴ / DMSP / DMS / 遺伝子 |
研究実績の概要 |
海岸で感じる「磯の香り」の原因である硫化ジメチル(DMS)は、さまざまな植物プランクトンが浸透圧調節物質として生成するジメチルスルホニオプロピオン酸(DMSP)から、主に細菌や植物プランクトン自身が持つDMSPリアーゼという酵素により、DMSへと転換される。DMSは大気中で水蒸気の凝結核となり雲を形成するので、太陽光を遮ることによる地球冷却効果の役割を果たすと考えられている。我々は造礁サンゴのゲノム情報の比較解析から、ある特定のサンゴ(ミドリイシ属)でのみ、DMSPリアーゼに似たアミノ酸配列を持つ遺伝子(DMSPリアーゼ様遺伝子)の数がゲノム上で大きく増加していることを発見した。ミドリイシ属サンゴに多く存在するDMSPリアーゼ様遺伝子は、実際にDMSを産出することができるのだろうか。遺伝子解析を中心に解明を進める。 これまで造礁サンゴを含む刺胞動物のゲノムから、DMSPリアーゼ様遺伝子の存在が確認されている。DMSPリアーゼ様遺伝子は他の動物群にも存在するのか、確認した。これまでに我々が解読したサンゴや褐虫藻のゲノム情報や、現在利用可能な全てのトランスクリプトームデータベース(NCBI TSA)からDMSPリアーゼ様遺伝子を探索し、分子系統解析を行った結果、動物タイプのDMSPリアーゼ様遺伝子は、刺胞動物以外の動物群には確認されないことが明らかになった。さらに造礁サンゴとは系統的に離れたクラゲの1種にも存在が確認されたことから、刺胞動物のDMSPリアーゼ様遺伝子の進化の起源はとても古いことが示唆された。さらにミドリイシ属のサンゴの一種、コユビミドリイシから、合計13個のDMSPリアーゼ様遺伝子の全長配列を単離することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で注目している遺伝子の、動物における進化的な起源を明らかにすることができた。さらに、実際にサンゴから目的遺伝子の全長を複数単離することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
単離したコユビミドリイシ由来DMSPリアーゼ様遺伝子の、分子生物学実験による機能解析実験を進める。単離できた遺伝子の数が多いので、分子系統解析の結果や、異なる発生段階での遺伝子発現パターンなどを考慮に入れ、今後の分子生物学実験の優先順位を決定する。これまでの先行研究で、様々な条件のサンゴの遺伝子発現が解析されてきたが、これらのデータを利用して、様々な生理条件下でのDMSPリアーゼ様遺伝子の発現パターンを調べ、機能の推定を行いたいと考えている。DMSPリアーゼ様遺伝子は、高温や浸透圧ストレスへの関与も示唆されているので、実際にこれらストレスがDMSPリアーゼ様遺伝子の発現へ影響を与えるのかについても調べていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症により、出張を伴う材料採集と実験の実施に大きな影響を受けた。今年度もどの程度実施可能か不透明だが、昨年度行えなかった材料採集を行い、研究を推進する。
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