土壌・底質に含まれる金属酸化物が効果的に重金属を収着し、重金属類の環境内挙動に影響を与えることは幅広く知られた知見である。しかし、二酸化チタンが重金属を効果的に収着することは知られているものの、土壌科学分野のほとんどの報告は酸化鉄あるいは酸化マンガンに着目している。その結果、重金属による土壌汚染における二酸化チタンの重要性を議論した研究例は数少ない。そしてこれらの数少ない研究例は、アナターゼが土壌・底質中において重金属の挙動に大きな影響を与えることを示唆しているが、知見の蓄積は不十分であるのが現状である。 研究1年目は、内圏錯体と外圏錯体を組み合わせたモデルを用いて、デキシーカオリナイトと試薬のアナターゼへのプロトンとカドミウムの吸着現象のモデリングを行った。しかし、結晶面が露出したアナターゼ結晶を合成が十分に検討できなかったことが課題として挙げられた。研究2年目は、モンモリロナイトは陽イオン交換容量が大きいために二酸化チタンに吸着するカドミウムの割合は低いが、雨などに含まれる陽イオンにより容易に溶出するため、二酸化チタンの含有量が高い方が溶出量が少ないことを明らかにした。 これまで注目されてこなかった二酸化チタンに着目し、重金属の土壌への吸着・土壌からの溶出に二酸化チタンが及ぼす影響に関する定量的なデータを提供できたのは大きな成果と考えられる。特に、カオリナイトとモンモリロナイトという陽イオン交換容量が大きく異なる2種類の粘土鉱物の両方で二酸化チタンの含有量が重金属の吸着あるいは溶出挙動に影響を与えることが明らかにできたのは非常に有意義な知見と考える。
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