人工血管などの生体材料と生体組織との吻合においてそれぞれの弾性率不一致(コンプライアンスミスマッチ)は大きな課題となっており、吻合部での血流の擾乱や繰り返し応力負荷は血栓形成や内膜肥厚ならびに吻合部の疲労破壊の原因となる。そこで本研究では、接着剤と生体組織間で共有結合を形成しながら、生体組織の伸縮・変形に伴う接着界面での応力集中を自動的に回避する全く新しい機構を有する超分子系生体組織接着剤の設計を目指す。2021年度は多数のα-シクロデキストリンの空洞部をポリ(エチレングリコール)鎖が貫通しその両末端を嵩高いアダマンタン基で封鎖したポリロタキサンに、タンパク質や糖鎖と共有結合可能なアミノ基を修飾した超分子系生体組織接着剤を設計した。今回、モデル組織であるブタ大動脈を用いて組織に対するポリロタキサンの接着性について評価した。ブタ大動脈の表面にポリロタキサン溶液を被覆し紫外線を照射すると、アミノ基を修飾したポリロタキサンはヒドロゲルを形成し、組織と強く接着することを明らかにした。大動脈組織を縦や横に伸長すると、組織に変形に追従してポリロタキサンヒドロゲルが柔軟に変形することが認められた。さらにこれを組織の切開部に塗布して光架橋することで、切開部からの液漏れを止めることに成功した。このように、光架橋型ポリロタキサンは、超分子を基盤とした組織接着性バイオマテリアルとして、生体組織の修復・再生に応用できる可能性を有している。
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