研究課題
本研究では,熱電発電デバイス自体に信号増幅作用を付加した生体情報センサの開発を目指している.本年度得られた主な成果を以下に示す.1.自己発電型センサの基本材料となるフレキシブル熱電材料として,マイクロ波支援ソルボサーマル合成法により作製したZnOナノ結晶/導電性NiCu布に着目している.結晶成長の重要なパラメータのひとつである合成中の溶液温度の測定を行い,マイクロ波の電力量(マイクロ波電力×時間)に応じて温度が線形的に増加することを確認した.プロセス条件を変えて作製した試料を,電子顕微鏡およびX線回折装置により解析した結果,ZnOナノロッドをNiCu布表面にほぼ垂直に形成することに成功した.2.3種類の導電性布材料にて試作した熱電デバイスの発電特性において,印加した温度差に応じた出力電力が確認できた.その特性から,異種布間の電気的・熱的接触抵抗が大きく影響していることが示唆されたため,電気的接触抵抗を測定するための装置を構築して実測した.異種布間の接続を導電性両面テープにするなど,接触抵抗の低減に向けた実験を進めている.3.p型半導体とn型半導体の対で構成される熱電発電デバイスが,センサ機能・信号増幅機能を持つかを確認するために,アルメルクロメル熱電対とコンデンサ・抵抗といった回路素子を用いて模擬実験を進めている.熱電対に温度差を与えつつ周期的信号を印加したところ,周期的な波形がコンデンサを通して熱電対端子に観測された.得られた信号振幅は,直列につないだ熱電対の数に比例はしないものの増加しており,熱電発電デバイスによる信号増幅機能の可能性が示された.
2: おおむね順調に進展している
マイクロ波支援ソルボサーマル合成法により,導電性NiCu布上にZnOナノロッドをほぼ垂直かつ密に成長できたことは,本研究の最大のハードルになると考えていたため,非常に大きな進展である.その一方で,作製した試料の熱電特性評価にまだ着手できていない点がマイナス部分である.3種類の導電性布で試作した熱電デバイスに対して,電気的接触抵抗測定を行っており,改善に向けた取り組みを進めている点は,予定通りである.
現状のZnOナノロッドの長さ(高さ)では,フレキシブル熱電材料の熱電特性を支配するにはまだ不十分である.マイクロ波支援ソルボサーマル合成法の結晶成長パラメータは多岐にわたるため,ナノロッドの太さを変えずに長く成長するための成長条件を探索する.そのために,それぞれのパラメータが結晶成長に及ぼす物理的・化学的効果をひとつひとつ解明していく.実際のフレキシブルデバイスについては,導電性糸や導電性両面テープの利用など異種布間の接触抵抗を低減するための方策を試す.
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
Journal of Materials Science: Materials in Electronics
巻: 33 ページ: 9301-9311
10.1007/s10854-021-07295-2
IEICE Transactions on Electronics
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10.1587/transele.2021FUS0003
https://wwp.shizuoka.ac.jp/ikedalab/