研究課題/領域番号 |
20K21887
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
前田 英次郎 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (20581614)
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研究分担者 |
松本 健郎 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (30209639)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 腱 / コラーゲン / 力学負荷 / 線維配向 |
研究実績の概要 |
腱,血管,椎間板などは損傷すると自己再生しない.自家組織移植による修復には移植片採取回数の限度,移植片採取部の治癒などの問題があり,また現在の人工代替材料を用いた修復術にも生体適合性や長期使用による機能劣化の問題が残る.これらの問題は人工組織の力学特性が周囲組織と一致しないことも一因と考えられている.したがって,適切な生理的生体適合性(低異物反応)と機能的生体適合性(線維配向,弾性,強度の周囲との一致性)を有し,最終的に組織再生を導く人工組織を効率的に作製する技術の登場が渇望されている.力学負荷を支持する軟組織はコラーゲンやエラスチンなどの線維タンパク質によって構成され,組織の力学特性,特に非線形な応力-ひずみ関係は構成タンパク質の成す構造の配向性に依存することが知られている. これまでに提案されている組織形成方法は,例えばエレクトロスピニング法や生体内組織形成法がある.エレクトロスピニング法はkVオーダーの高電圧を用いて線維タンパク質をナノメートルオーダーの極細線維として射出し,無配向または特定方向に揃った線維組織を作製する方法である.人工高分子の繊維組織形成には有用であるものの,熱変性を生じるコラーゲンには不適であり,エレクトロスピニング法でコラーゲン組織を作ることは難しい.生分解性の鋳型を動物の皮下に埋殖し,生体が異物を包み込む作用を利用して特定の形状を有する組織を形成させる方法も提案されているが,作製に時間を有するため現実的な方法とは言えない. そこで本研究では,生体組織は作用する力学負荷に適応した最適な構造を形成する原理から,短時間に任意の線維配向をもつ組織を形成する独自の方法を考案し,人工の腱,血管,椎間板を作製することのできる基盤技術の開発に挑戦する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,酸性コラーゲン溶液を中和したものを鋳型に入れ,ダンベル型コラーゲンゲルを作製した.次いでこのゲルに2 gfの静的荷重を作用させて24時間インキュベートし,引張試験で弾性率,破断応力を調べたところ,無負荷インキュベートしたゲルと比べて弾性率,破断応力共に有意に上昇した.また,2光子顕微鏡でコラーゲンSHG光を観察して線維構造を評価したところ,負荷インキュベーションゲル内の線維が負荷方向に配向した.続いて,インキュベート中に架橋剤を導入したところ,弾性率と破断応力の更なる上昇が確認された.また負荷インキュベート時間を48時間に延ばした場合でも,破断応力の上昇が確認された.このように,力学負荷と架橋剤を組み合わせることで,コラーゲン組織の弾性率と破断応力を短時間で飛躍的に上昇させる方法を見出した.一方で,生体への埋殖を考えると弾性率,強度にまだ改善の余地があることも確認した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は架橋条件や力学負荷量の最適化などを行って,弾性率と破断応力の更なる上昇を図る.また初年度に確立した方法を元に,円筒形ゲルに力学負荷を与えて血管や椎間板線維輪に類似した線維配向を有する人工組織を作製する技術開発に挑む.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大を受けて国内外で学会がオンライン開催となったため,当初計上した旅費を支弁する必要がなくなり,翌年への繰越金となった.また,当初引張試験機購入を想定していたが,進捗を鑑みて一旦見合わせることとした. 次年度に請求した助成金と合わせて,進捗に合わせて実験に必要な器具の他に装置類を購入することを考えている.
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