宇宙線暴露・微小重力といった地球上とは大きく環境が異なる宇宙空間において、様々な生体応答が報告されてきた。しかし、その分子メカニズムに関して多く研究されているにも関わらず、肝心の重力センシングメカニズムに関しては不明な点が多い。我々は、重力感知機構に関する研究により、過重力時に密度の大きい核・ミトコンドリアと細胞骨格との相互作用が重要であることを明らかにしてきた。そこで、「微重力下ではどのような細胞挙動をするのか?」と疑問に感じ、微重力下での細胞挙動のリアルタイム観察が喫緊の課題であることを痛感し、リアルタイム測定系クリノスタット搭載型蛍光顕微鏡の構築を本研究の目的とし研究に着手した。 まず、疑似微小重力装置搭載型顕微鏡システムの作製とし三次元光造形装置を用いて既存のクリノスタットに搭乗させられる蛍光顕微鏡のプロトタイピングを行った後、アルミ切削加工部品に置換してクリノスタットに搭載した。これと並行しクリノスタット回転での培養に耐えうる特殊チャンバーの開発を行った。伸縮性、ガス透過性が高いと認められているPDMS(ポリジメチルシロキサン)を用いて密閉回転培養用チャンバーを作製した。 マウス骨格筋由来のC2C12を培養後、核染色し、クリノスタット回転にて疑似微小重力下でのリアルタイム測定を行った。クリノスタット搭載型蛍光顕微鏡のため、移動中焦点のずれが生じるが、解析可能なデータ修得のできるシステムの開発に成功した。このシステムを用いて、リアルタイム培養細胞核の挙動を解析したところ微小重力下での有意な移動や変形は確認できなかった。核やミトコンドリアなど細胞内小器官への微重量が及ぼす影響を解明するためには、今後の詳細な研究が期待される。
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