研究課題/領域番号 |
20K21903
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
安田 隆 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 教授 (80270883)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞外ベシクル / 微小孔 / マイクロデバイス |
研究実績の概要 |
マイクロデバイス内で直径数μm以上の細胞外ベシクルを取得する技術を構築するために、下記の実験を行った。半導体加工技術によりSi基板を加工して矩形ウェルを形成し、ウェル底面として8×8個の微小孔を有する膜厚約1μmの窒化シリコン(SiN)製自立膜を形成した。SiN膜裏面に遮光のためTiを成膜した後に、この自立膜両面に細胞膜アンカー分子(オレイル基にPEG鎖が結合した分子)を修飾した。そして、予め蛍光色素DiIで染色したヒトBリンパ球様細胞Ramosを播種し、細胞膜アンカー分子のオレイル基を細胞膜に挿入させることで微小孔上に細胞を固定した。次に、酪酸ナトリウムの薬剤刺激により細胞にアポトーシスを誘導することで、細胞から蛍光染色された細胞外ベシクルを生成させ、微小孔直下にベシクル膜を突出させた。このとき、自立膜裏面にも細胞膜アンカー分子が修飾されているため、微小孔から下方に突出したベシクルが自立膜裏面に接着した状態を維持しながら球状に膨らみ、直径10μm以上の巨大な細胞外ベシクルが得られた。 微小孔径がベシクル生成に与える影響を調べるために、直径2、5、7μmの微小孔を有する3種類のSiN膜を製作した。薬剤刺激3時間後に細胞外ベシクルの蛍光画像を取得し、各微小孔径における直径10μm以上のベシクルの生成数と粒径を計測した。その結果、微小孔径が大きくなるほど多くのベシクルが得られることが分かった。これは、微小孔が大きい場合には、複数個の細胞が微小孔上に存在する可能性が高まり、一つの微小孔から複数個のベシクルが生成されたためだと考えられる。また、微小孔径の増加とともにベシクルの直径が大きくなる傾向があることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した研究実施計画のうち、研究目標の達成に必須のミクロンサイズの細胞外ベシクルを大量に生成する技術を構築しただけでなく、当初の計画よりも大きな(直径10μm以上)のベシクルを再現性良く生成する新規技術を構築し、今後の研究促進に大きく寄与する成果を得ることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
細胞外ベシクル膜を微小孔内に再現性良く確実に保持する技術を構築し、ベシクル膜表面に存在する膜タンパク質を、その構造と機能を維持した状態で微小孔内に取得する。これにより、ベシクル膜内外の溶液の入れ替えや膜近傍への測定系の構築を行うことで、膜タンパク質周辺の環境を制御しながら、その機能を解析することが可能になる。まず、直径数μmの微小孔を有する膜厚約1μmのSiN製自立膜を製作し、この表面に細胞膜アンカー分子を修飾する。生成した細胞外ベシクルをこの微小孔上に固定した後に、界面活性剤(Triton X-100)を作用させてベシクル膜を部分的に溶解するなどの手法により、ベシクル膜を微小孔上に展開固定する技術を確立する。 次に、膜タンパク質の機能を解析する基礎実験として、細胞外ベシクル膜上に存在するグルコーストランスポータ1(GLUT1)を解析対象とし、GLUT1により輸送されるグルコースを微小電極により検出する。すなわち、微小孔の極近傍にグルコース酸化酵素を固定した微小電極を形成し、酵素反応により発生する過酸化水素を微小電極により電気化学的に測定する。GLUT1の直接阻害剤であるフロレチンを作用させてグルコース輸送能の低下を確認することで、微小電極による測定結果がGLUT1に由来するものであることを確認する。また、グルコース濃度と測定値の関係を調べることで、GLUT1のグルコース輸送能を評価し、本解析系の有用性を実証する。
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