抗体がもつ結合領域の多様性は生物が外敵から防御するための免疫における高度な防御システムであるが、合成高分子ポリエチレングリコール(PEG)誘導体により産生されるPEG特異的抗体は、PEGへの結合親和性が極めて弱いという性質を示す。この現象は極めて弱い相互作用を示すPEGが抗体の多様性に関わらず、各種抗体へ相互作用できる可能性を示唆し、PEGが近づくことができるという性質が抗体との相互作用には重要な鍵を握ると考えられる。即ち、抗体のもつ抗原結合部位の多様性という性質を捉え直す現象であることが示唆される。本研究は抗体の抗原結合部位多様性に依存せずに、近づくこと、および結合することという現象を2つに切り分け、抗原と抗体との新たな関係をPEGと抗PEG抗体との関係を用いて見出すことを目的とした。PEGの示す抗PEG IgM抗体への相互作用が非常に弱いことをELISA、QCM法を用いて明らかにした。非常に興味深いことに、PEGは非PEG特異的IgM抗体にも同様に作用するという現象を明らかにした。即ち、PEGが抗体へ近づくという作用に、特異性の性質が重視される必要がないことを示唆する。PEG特異的抗体と非PEG特異的抗体の両者の差は、近づけた際により強固に結合できる場があるかどうかにあることを明らかにした。この意味は、1つにはPEGの作用が多くの抗体に起き得ることを示し、もう一つには近づいた抗体側に強固な結合となる疎水的(脂質、疎水性水和分子など)の領域が存在することが重要であることを明らかにした。
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