本研究の目的は、微細藻類を内包することにより光合成能を獲得した立体筋細胞組織を構築し、未来の再生医療における移植組織の作製や、義手・義足、バイオアクチュエーターの開発等において基盤となり得る新たな組織工学技術の確立を目指すものである。当該年度においては、前年度に引き続き厚み0.3 mm以上の藻類含有筋組織の作製・培養条件の検討を進めた。動物細胞としてはマウス筋芽細胞株(C2C12)、マウス線維芽細胞(NIH3T3)を用い、また藻類としては、動物用培養液にて一定期間培養が可能であることを確認した4種の藻類株を用いた。種々の動物細胞と藻類種の組み合わせ及び配合比において共培養組織を作製した。さらに光合成を誘起する照射光の強度と波長を様々に変化させ、組織内部の損傷を解析した。しかしながら、厚み0.3 mmを超える組織において、藻類を内包させることによる細胞損傷の抑制を確認することができなかった。一方で、厚みが0.2 mm以下であれば細胞損傷のない良好な藻類・動物細胞共培養組織が作製できることが確認された。この結果を元に、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いて藻類との共培養組織作製条件を検討した。その結果、自律拍動する藻類・心筋共培養組織を作製することに成功した。本結果は光合成能と収縮能をあわせ持つ立体筋組織の開発における第一歩とみなせるが、現状において組織の厚みを増加させることにともなう細胞損傷の促進を解決できておらず、その原因としては、光合成により発生する酸素が逆に動物細胞にとっての酸化ストレスとなる可能性が考えられ、今後の課題として残った。
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