研究実績の概要 |
最終年度では、これまで海外渡航が困難であったため行えなかったオーストリア国立図書館における原本調査を実施し、画像のみでは判読が難しい箇所を補完し、デジタル校訂版の作成を大いに前進させた。それを踏まえこれまでの考察を再検討しさらに深めることに注力した。 『格物窮理便覧』の内容と特徴については、スペイン語原典、日本語訳、漢訳における動物をめぐる知の翻訳について考察し、多様な翻訳方針によって東西の知が重層的に作用した知の形成過程をより明らかにした。キリスト教文献と動物の異文化翻訳をテーマに、ヨーロッパ日本研究協会(EAJS)第17回会議で、日本文学、中国史、日本史の3名の研究者とパネルを企画し発表した。このパネルでは、アニマル・スタディーズ関連研究に取り組む様々な分野の研究者が関心を集め、本研究のもつ将来性が明らかになった。 テキストの構造化については、マークアップ方針や課題をSAT/TEI・DH・TEI研究会合宿で発表し、仏教や言語学、歴史学、人文情報学の研究者と検討しマークアップを改良した。これまでの『格物窮理便覧』等の中国キリスト教関連文献のTEI化の成果を踏まえ、TEI分野で権威のある国際大会で発表した。国内でも『歴史学研究』の特集「データ分析で広がる歴史学の最前線」に寄稿し、共著者として人文情報学の学会で発表した。本研究は、中国キリスト教史資料の国際基準に準拠した構造化の一つの良い事例を提供した。 最終年度では、研究代表者が参画している"Shared Coasts, Divided Historiographies"プロジェクト(ゲティ研究所、九州大学)と所属先で企画している「Knowledge Encounters」研究ユニットで本研究の一部を発表し、様々の分野の研究者と「知の出会い」や「知識の翻訳」、「東アジアにおける交流」などの理論的展開をめぐって議論を深めた。
|