研究課題/領域番号 |
20K21922
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古川 萌 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 特任研究員 (90886219)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | バルディヌッチ / ヴァザーリ / フィレンツェ / 美術史 |
研究実績の概要 |
本研究は、17世紀のフィレンツェにおいて展開した、美術制作を生業としない者による美術批評の位置づけを明らかにすることを目的とし、今年度は「17世紀イタリア美術批評における当事者性」についての調査をおこなった。 16世紀後半フィレンツェにおいて画家・建築家ジョルジョ・ヴァザーリが美術史を記述した『美術家列伝』が出版されて以降、イタリアではほかの各都市でも美術史の編纂が相次ぎ、ローマ、ヴェネツィア、ボローニャといった場所でそれぞれの土地の著名な美術家を称揚するテクストが登場した。これを受けてフィレンツェでは、新たな美術家列伝の編纂の必要が生じ、レオポルド・デ・メディチ枢機卿に仕えていたフィリッポ・バルディヌッチが『素描美術家たちの消息』を執筆した。 17世紀に美術家列伝を執筆した主な著述家たちに共通しているのが、画家や彫刻家、建築家といった、実際に制作に携わる職業に就いていないことである。当事者ではない立場、すなわち純粋な鑑賞者としての立場から美術を語ることは、ヴァザーリ以後に登場した批評の新たなかたちであるといえる。 バルディヌッチの美術へのまなざしについて調査したところ、作品の直接観察をとりわけ重要視していることが判明した。先行研究では直接観察の重要視を同時代の「新たなる学」と関連するものとして論じられているが、ここではヴァザーリもまた作品そのものに触れることを重要視していたことを指摘し、フィレンツェにおける作品受容の連続性を見出した。というのも、ヴァザーリは素描を精力的に収集しており、『美術家列伝』読者にそれらの素描を実際に見ることを推奨していたからである。以上の発見をベルギーで開催されたシンポジウム Engaging Margins: Framing Imagery as Embodiment of Cognitive Processes で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実績の概要に記述したように、バルディヌッチについての研究は進めているが、同時に進行する予定であった他地域の美術書読解が進展していないため。
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今後の研究の推進方策 |
1年目の課題であったイタリア各地の17世紀の美術書読解を進める。今年度じゅうにイタリアで現地調査をするのは絶望的であるため、国内で読解作業を遂行することで、将来の現地調査への準備を入念にしておくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症流行の影響を受け、研究に遅れが生じたのに加えて、購入すべき書籍を海外から手配するのに問題が発生したため。
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