研究課題/領域番号 |
20K21922
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古川 萌 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 特任研究員 (90886219)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2024-03-31
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キーワード | ヴァザーリ / バルディヌッチ / 美術批評 / イタリア / ルネサンス / バロック |
研究実績の概要 |
本研究では、17世紀のフィレンツェにおいて展開した、美術制作を生業としない者による美術批評の位置づけを明らかにすることを目的とし、フィリッポ・バルディヌッチ著『素描美術家たちの消息』(以下、『美術家消息』)を対象に研究を進めてきた。 研究計画においては、17世紀イタリアの美術批評と16世紀から始まった美術教育にそれぞれ1年ずつかけて研究を進める予定だったが、研究を進めるうち、16世紀と17世紀の美術批評をつなぐ道筋として「直接性」という観点を見出したため、今年度はこの直接性に着目して、バルディヌッチの著作を検討した。作品に直接触れること、そして作家が直接触れた作品を観ることは、作品制作および鑑賞における当事者性と関連しており、本研究の目的に合致するものと考える。 具体的には、バルディヌッチの『美術家消息』を、先行する美術家の伝記集であるジョルジョ・ヴァザーリの著作『美術家列伝』と比較し、両者が美術の直接性に強い関心を抱いていることを分析した。先行研究では、バルディヌッチが作品の直接観察の重要性を強調しているのは、同時代の科学の潮流を反映しているものとみられてきたが、本研究ではヴァザーリがすでに16世紀において直接性を強く意識した素描コレクションを形成していることを指摘し、ヴァザーリの流れをくむバルディヌッチの著作においても、その影響を無視することはできないことを明らかにした。本研究論文は学術誌『美学』に採択され、2023年6月に出版予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究目的には合致する内容ではあるが、研究計画にはなかった点を調査しはじめ、もともとの計画であった16世紀における美術教育には手を付けられていない状況である。とはいえ、美術批評における当事者性については研究を進めており、成果を上げることはできている。
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今後の研究の推進方策 |
美術制作および鑑賞における当事者性にフォーカスし、引き続き17世紀イタリアにおける美術批評の読解・検討を進める。また、2023年度7月にはイギリスで開催されるルネサンス学会にて発表を予定しており、最新の研究の情報を収集する見込みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究目的に沿って海外出張を計画していたが、渡航が2023年度となったため、次年度使用額が生じた。2023年7月に渡航を計画しており、その際使用する予定。
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