本研究は日本の17世紀末から18世紀における武士階層の儒学受容に焦点を当てた。この時代は18世紀半ば以降の幕政・藩政改革なかで、政治と学問(儒学)の緊密な関係が形成される前段階であり、学問の社会的有用性が未だ信用に足らない時代である。本研究の成果は、儒者と武士が儒学(朱子学)を共通の政治的方法論として錬磨していく過程を明らかにした点にある。儒者と藩士・藩主を主な構成員とするこの時期の闇斎学派では、初歩的な道徳教化を個々の政治主体化への目処としていた。とりわけ低年齢、幼年の君主への教化という課題が意識された。このことは、藩校の設置をはじめとする藩士教育への移行を推し進めるのに寄与したはずである。
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