本研究は、3DプリントしたPLA樹脂に乾漆の持つ優れた耐久性を組み合わせることで、デジタル原型を乾漆彫刻と同等の強度で実体化させることを目的とするものである。植物を原材料とするPLA樹脂と漆は、石油を原材料とする樹脂に比べて環境に与える負荷が少ないという特徴を持つ。両素材を彫刻制作の主たる素材とすることに成功すれば、制作過程で排出される廃棄物や、制作活動全体でのCO2排出量を減少させることが可能となる。 最終年度の実績としては、前年度に揃えた3Dプリンター等の研究環境を活用し、前年度に比べて大きなサイズ(胸像サイズ、1/2サイズの全身像)の彫刻を出力し、研究計画調書の図A、Bの技法にて乾漆像に置き換え、一般的な彫刻としての強度を兼ね備えているかどうかテストを行った。前年度の小型彫刻に引き続き、完成した乾漆像は対候性、耐衝撃性共に十分な強度を有しており、これにより本研究にて提唱する技法が比較的大型の彫刻にも活用が可能であることが確認された。 また図A、Bの技法で作成された彫刻について、両者の特徴の比較を行った。3Dプリントを型として用いる技法では、結果として得られる彫刻は従来の石膏型を用いた脱活乾漆像と変わらず、モデリングソフト上で作成した形状を忠実に立体化することが利点となる。欠点としては、使用した型は廃棄物として処理せざるを得ず、制作過程で排出される廃棄物を減少させるという当初の目的にはややそぐわない結果となった。一度使用したPLA樹脂の再利用も検討していたものの、型として使用した樹脂には漆の汚れが付着している為に不可能であった。 一方で3Dプリントした樹脂の外側に貼り込む技法には形状が甘くなるという特徴がある。これは一概に欠点とは呼べず、また型を用いないことで廃棄物が出ないという明確な利点が存在する。この技法によって、当初の研究計画は実現可能という結論が得られた。
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