研究課題/領域番号 |
20K21927
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
坪光 生雄 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (10876254)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | ポスト世俗 / 世俗主義 / 世俗化 / 宗教概念批判 / 宗教言語論 / ジュディス・バトラー / チャールズ・テイラー |
研究実績の概要 |
本研究は、「ポスト世俗」という標語のもとに捉えられる現代の思想潮流の特徴を、概括的に把握することを目的とする。この目的のために、本研究は「ポスト世俗」という言葉そのものの意味に関する一般的な概念論的検討を行うとともに、とりわけ実定的な宗教諸伝統が、公共圏において政治的主張を提起することの可能性や、その言語的様式に関わる哲学的-思想的諸言説に注目する。 2020年度から2021年度へと持ち越された課題として、ジュディス・バトラーの宗教論の検討があった。この課題に関わる2021年度の研究成果は、複数の学会報告において発表された。 日本宗教学会での研究発表では、バトラーのシオニズムおよびイスラエルの国家暴力に対する批判の論理が、ユダヤ性に関する特定の理解に根拠をもつことを確認した。バトラーはユダヤ教におけるディアスポラ的伝統から国家暴力に対抗する普遍的な倫理のポテンシャルを引き出してくるが、この作業は、宗教的言語を世俗的言語へとたんに置き換えるのではない、別様の「翻訳」および「普遍化」の概念化を伴っていることが、本研究にとって興味深い点である。 また、バトラーの「翻訳」の概念については、宗教哲学会シンポジウムの提題においても再び別の角度から取り上げた。宗教学におけるいわゆる宗教概念批判の議論は、個別のコンテクストを重視する観点から普遍主義を批判する。これに対し、ユダヤ的な離散の概念と結びついたバトラーの「翻訳」概念は、脱文脈化を通じた普遍主義の可能性を指し示すものである。同提題においては、これをタラル・アサドの議論と対比し、両者における「ポスト世俗的」なアプローチの違いを明らかにした。 その他、2021年度は、2020年度より引き続くチャールズ・テイラーの宗教論に関する研究の成果として、学会発表を行い、また複数の論考を刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度より引き続き取り組んできたチャールズ・テイラーに関する研究成果を、論文および学会報告の形で、複数発表することができた。 2020年度に次に取り組むべき課題として挙げていたジュディス・バトラーの宗教論について検討を進め、いくつかの成果を得ることができた。ただし、この研究の成果を論文として発表することは、今後の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2021年度にジュディス・バトラーの宗教思想について行った研究成果を、論文として刊行することを目指す。また、本研究が行ってきたポスト世俗の思想研究を、宗教学における宗教概念批判の蓄積のなかに位置づけ、その意義をより一般的な仕方で検討することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画では遠隔地で開かれる複数の学会への参加のために旅費を計上していたが、それらの学会がすべて、コロナ感染症対策のためにオンライン開催となり、旅費を支出する必要がなくなったため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額については、文献および資料の購入(物品費)を主たる用途として使用する予定である。
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