本研究は、「ポスト世俗」というキーワードのもとに捉えられる現代の思想潮流の特徴を、概括的に把握することを目的とする。この目的のために、本研究は「ポスト世俗」という言葉そのものの意味に関する一般的な概念論的検討を行うとともに、とりわけ実定的な宗教諸伝統が、公共圏において政治的主張を提起することの可能性や、その言語的様式に関わる哲学的-思想的諸言説に注目する。 初年度である2020年度は、チャールズ・テイラーの宗教論を中心に検討を進めた。なかでも、本研究の成果としては、テイラーの言語論がもつ宗教的/ポスト世俗的な性質を、とくに彼のカトリック信仰との関連から確認することができたのが大きい。その際、こうしたポスト世俗的言語哲学から帰結するテイラーの政治的な態度についても詳細に明確化することができた。 2021年度には、ジュディス・バトラーの宗教論の検討を通じて、なおオルタナティヴなポスト世俗性の概念化の手がかりを得ることができた。ユダヤ的伝統のうちに自身の宗教的背景をもつバトラーは、ポスト世俗主義の代表的論者であるユルゲン・ハーバーマスにおいても重要視されていた「翻訳」の概念に、独特のひねりを加えている。「翻訳」ないし「普遍化」を、「離散」というユダヤ的歴史と結びつけるその議論は、それ自体、新たに「ポスト世俗性」の現れとして本研究の関心の対象となる。この研究成果は複数の学会発表の機会に示した。 2021年度、コロナ感染症対策のために学会等が多く遠隔開催となったために、研究経費に些少ながら繰越が生じたため、本研究課題は補助事業期間を2022年度まで延長することとなった。2022年度は、初年度の研究成果に、より発展的な内容を加え、チャールズ・テイラーの宗教論に関する単著を刊行し、またそれに関連した内容の学会発表を行った。
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