コロナ禍で延期されていた、LP『ドキュメント 日本の放浪芸』、映像版『新日本の放浪芸』、その後のビクターの音楽芸能の記録のアンソロジーに関する聞き取り調査(1回)を行ない、全体の分析、そして成果の公開と行なった。 前年度の市川捷護氏へのインタビュー時(2021年11月)に、LP『ドキュメント 日本の放浪芸』の二回目のCD復刻(2015-2016)のプロデューサー市橋雄二氏(現・公益財団法人日本伝統文化振興財団理事長)の紹介の労を頂いたことで、今年度は両氏同席のもとでインタビューが実現した(2022年5月6日)。このインタビューでは、LP『ドキュメント 日本の放浪芸』から、その後のビクターの音楽芸能の記録のアンソロジーまでの制作の経緯を伺った。 また、これまでLP『ドキュメント 日本の放浪芸』第二作の発売年が1973年であることは、市川捷護『回想 日本の放浪芸』や2015年のCD復刻版の解説書に記載されていたものの、正確な発売日が不明であったため、市橋氏にビクター内部での資料調査を行なって頂き、当初は1973年11月25日発売(12月新譜)の予定であったものが、何らかの理由で遅延し、1973年12月25日発売(1974年1月新譜)に変更されたことが明らかになった。こうしたケースでは『総目録』などの日付は変更されないことがあるとのご教示も頂いた。以上のような内部の基礎情報は外部からは把握しにくいため、インタビューという方法が有効なケースであった。 3年間の調査の分析から、小沢昭一における音楽芸能の正統性の概念は、芸能者の「環世界」を、そして小沢自身の「環世界」を描きうるか否かという判断のもとに構築されたことを詳らかにした。以上の研究成果は、個人ウェブサイトと、著作『掬われる声、語られる芸: 小沢昭一と『ドキュメント 日本の放浪芸』』(春秋社、2023年5月)として発表した。
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