前年度の長崎調査の結果をふまえ、台湾の寺廟調査を実施し、明から清にかけて中国内陸部でおこなわれていたと考えられる「信仰」の様相の一端が「周辺」地域に残されている可能性を確認した。また、研究の総括として宝蔵寺観音殿壁画の主題についての考察をまとめ、学会で口頭発表を行った。発表の内容をもとに論文を執筆中であり、完成次第投稿する予定である。 本研究は初年度からコロナウイルス感染症の拡大により各国、地域の行動が厳しく制限され、現地調査を前提とした研究計画の大幅な変更を余儀なくされた。 一年目はロンドン大学在任中の研究内容を整理し直し、改めて山西省明清壁画の歴史的地位について考えなおし、その成果を日本の学会で発表した。 様々な要因により研究期間を2年間延長したが、その間、宝蔵寺観音殿壁画制作の歴史的側面や、仏教史的観点からより詳細に探るべく、近世仏教の伝播や交流に関する文献を渉猟した。その結果、法蔵伝観音寺壁画の内容は、山西省五台山という一地域の問題としてのみならず、広く東アジアにまたがる近世仏教の伝播、そして「施餓鬼」の流行と深く関わる可能性に気がつくことができた。特に長崎および台湾での調査は、近世仏教および「民間信仰」にあらわれる施餓鬼の伝播の問題や、それ自身の関係性について改めて考えなおす契機となった。 VR技術を利用した研究については、コロナウイルス感染症拡大に起因する行動制限によってイギリス・中国共同プロジェクトが中断してしまい、当初予定していたような研究を行うことは出来なかった。しかし、現地に行かれないという状況が起こり得るというこの事実は、VR技術等の現地に赴かなくてもある程度の研究活動が行える体制を整えることの重要性をより強く認識させられた。今後、この点については改めて考えてみたい。
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