本研究はこれまで主に医学史において研究対象とされてきた、江戸時代に制作された解剖図・解剖書、及びそれらを描いた画家について美術史学的に考察するものである。これまで画家によって描かれた解剖図・解剖書について調査研究を実施してきたが、最終年度は新型コロナウイルスの影響等により行うことができなかった調査を実施することができた。その結果、画家によって制作された解剖図・解剖書が、医師たちの手によって繰り返し写され、学術的な書籍・図版として流布していく過程を考察することができた。 そして昨年度までの課題であった「課題2:骸骨図の解剖学的正確性の検証」については、18~19世紀の間における解剖学的関心の高まりと、そこから生じたと考えられる同時代の骸骨図における解剖学的正確性の向上に関して、解剖図・解剖書と骸骨図の比較検討を行った。本研究においては、解剖図・解剖書を制作した画家が、その経験を骸骨図などの人体を描いた作品の制作に具体的に活用した作例を確認することはできなかった。しかし解剖図・解剖書以外に、19世紀以降に盛んになった整骨や木骨制作が作画に活かされた可能性を検討することができた。 以上、本研究では、江戸時代に制作された解剖図・解剖書、及びそれらを描いた画家について、描かれた技法、制作背景、それらが美術作品に与えた影響等、美術史学的な観点から考察を行った。そしてその成果を、査読付研究論文「江戸時代における解剖学隆盛と解剖図について」(『美術史研究』第60冊 早稲田大学美術史学会 2022年)において発表することができた。解剖図・解剖書が同時代の骸骨図などの人体表現に与えた影響については、今後もさらなる検証が必要であり、引き続き研究を継続していく所存である。一方で、医学史資料を美術史学の観点から考察するという当初掲げた目標については、一定の成果を挙げられたものと考える。
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