研究課題/領域番号 |
20K21940
|
研究機関 | 金沢学院大学 |
研究代表者 |
森野 雄介 金沢学院大学, 基礎教育機構, 講師 (80880963)
|
研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
|
キーワード | 日本哲学 / 西田幾多郎 / アンリ・マルディネ / 現前 / 形 |
研究実績の概要 |
2021年度は以下の研究を中心に行った。 ① 西田幾多郎の「事実」概念の再検討。 西田幾多郎の後期哲学における「事実」概念の内実を批判的に再検討した。具体的には、アンリ・マルディネ『まなざし、言葉、空間』で論じられる「現前」概念とヘーゲル批判を念頭に置きながら、西田幾多郎の後期哲学における「歴史的事実」の概念と対比することを通じて、西田幾多郎の後期哲学において変質が生じていることを明らかにした。その変質とは、三人称的な言語に基づく「ロゴス」概念の特権視および「歴史」概念の前景化に伴う行為の一人称性が矮小化されていくことを示した。だが、同時にこの点に西田幾多郎の哲学を展開させる可能性の萌芽が含まれており、アンリ・マルディネが論じる「ポイエシス」概念のように、一人称性に立脚するものとして後期西田の「ポイエシス」概念を解釈しなおすことによって、『無の自覚的限定』などの中期著作における一人称的な「事実」を議論の遡上に載せながら、後期のポイエシス概念と接続可能であることを示した。なお、この論点は「猫と歴史的世界 あるいはストレンジャーのポイエシス――アンリ・マルディネから西田幾多郎を読み直す」(『金沢学院大学紀要』第4号)として論文化した。 ② 西田幾多郎以降の「現前」概念の調査と検討 2021年度は、西田幾多郎以降の日本哲学における「現前」概念の内実を調査した。なかでも、大森荘蔵『物と心』、西谷啓治『宗教とは何か』および廣松渉『存在と意味』を中心に調査を行った。浮上した論点は、「もの」および「こと」という日本語での二つの対象の定義が哲学に及ぼす影響である。現段階ではさらに調査が必要であるが、「こと」を重視する大森・廣松に対して、西田・西谷は「もの」を重視する。この論点を精緻化することで、日本哲学の大きな見取り図を描くことが可能である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究状況はおおむね順調に進展している。 まず、大きな課題としてあげていた、アンリ・マルディネの「現前」概念と西田幾多郎の「事実」概念の比較を行うことができた。この論点から西田幾多郎の哲学に内在するこれまでに論じられてこなかった新たな理論的萌芽を明確化することができたためである。 懸念される点としては、大森荘蔵の「立ち現れ」概念の究明が想定よりも遅れていることである。大森哲学における「立ち現われ」と「場所」の連関をたどることによって、西田の理論との共通点を見出していきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、以下のものを行う。 (1)大森荘蔵の「立ち現れ」概念の明確化 大森荘蔵の「立ち現れ」概念および「もの」からの治療としての哲学観を中心に、西田の「純粋経験」概念を念頭に置きながら比較研究を行っていく。 (2)後期西田幾多郎と後期大森荘蔵の「ポイエシス概念」の比較 プラトンやアリストテレス、そしてアンリ・マルディネの「ポイエシス」に関する議論を念頭に置きつつ、両者の後期哲学で論じられる「ポイエシス」概念の特徴と共通点、差異の明確化を行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの流行により、当初予定していた学会に参加できなかったため。研究に必要である図書を精査し、使用する予定である。
|