研究課題/領域番号 |
20K21943
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
許 智香 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (60876100)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 京城帝国大学 / 哲学関連講座 |
研究実績の概要 |
本年度は西洋哲学関連文献の翻訳リストの作成を試みるという目標のもとで、1880年から1910年までに出版された中世哲学関連文献を収集し、検討を行った。本年度、明治期における中世哲学研究に注目した理由は、井上哲次郎の『西洋哲学講義』(1881)以後、いわゆる「日本形観念論」に用いられる概念の拡張段階を、西洋哲学史翻訳作業から確認するためであった。 また、上記の成果を(韓国)崇実大学校主催の国際シンポジウム("The Sinographic sphere and the Western Medieval PhilosophyーThe current status of translation of Western Medieval Philosophy and several related subjects”(The Institute for Korean Christinity Culture, 2020年10月30日)で発表した。一方、京城帝国大学の哲学関連講座に関するこれまでの研究成果を「京城帝大における法文学部の安定的設置」という観点からもう一度整理し、学会で発表した(武蔵大学主催、2021年2月27日) 前者の研究成果に関してはまだ論文作成まで至っていない。 後者に関しては「植民地期朝鮮における京城帝国大学哲学関連講座の特殊性―「支那」系講座編成を中心に」というタイトルで論文作成を完了し、査読論文に投稿し、その結果待ちの状況にある。後者の論文では、これまで「内地」の帝国大学に比べて消極的に評価されてきた植民地大学について再考を促す目的で、京城帝大の法文学部の設置が「内地」の帝大より安定的に行われた点を強調した。その根拠としては京城帝大の哲学関連講座の講座編成が、いかなる内地の帝大よりも東京帝大と酷似している点を図表に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画段階で設定した「西洋哲学関連文献の翻訳リスト」についてはまだ論文作成までは至っていないが、資料収集面においてはほぼ全ての資料が収集できた。また、これまで研究してきた京城帝国大学哲学関連講座について、最新の研究状況を踏まえて二回のシンポジウムで発表することができた。二回のシンポジウムはどちらも京城帝国大学研究における最新の研究状況を知ることができる場であった。またそのシンポジウムをきっかけに京城帝大に関係する新しい一次史料の翻刻に参加することとなり、これからの研究の進展に繋げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、西洋哲学の「人文学」化、西洋哲学の「学知」化が「内地」と「外地」それぞれに何をもたらしたか、以前の歴史との違いは何であったなどについて、「帝国主義と植民地主義」の観点から分析することを目的とする。西洋哲学に関するすべての事例、関連人物、翻訳語、書籍を取り上げることはできないが、今日に繋がる現象に最も濃厚に、最も関連深く影響した事例や人物、哲学史的事実に注目し、それを物語として再現することを目指す。特に日本の思想界ー明治思想史と大正思想史の流れを緻密に読んでいき、その再考を目指す。明治以降の日本の思想界は西洋哲学との対抗、その受容と発展に他ならない。本研究では、その思想過程における帝国主義的観点からの再考察を促すものとして、これまでの思想史に批判的な観点を与えようとする。例えば、井上哲次郎らに代表される国家主義的哲学についてはこれまで多く研究されている。本研究は、既存の<国家:それに対抗>という図式を超えて、<ある特定知>がもたらした新たな構造を高等教育機関における<哲学科>から見直す作業に取り組む。明治以来、帝国大学や専門学校で西洋哲学を学んだ人たちは皆それぞれ置かれた社会的状況にあわせて自分たちが学んだ思想や理論を応用・発展し、発表してきた。これはいうまでもない事実である。今後の研究では、根本的な構造変換がいかに起こったかを見直すために、観念論や唯物論などのスペクトルで思想界をみるのではなく、西洋の人文学の核を表す古代中世哲学に関する日本の対応に注目していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの状況で資料調査及び現地調査が難しくなり、旅費の使用ができなかった。次年度の使用計画としては、東京の国会図書館の文献調査をweb上で可能か検討し、文献調査を行う。また状況を見つつ京城帝大関係の資料調査を九州地方で行う予定である。
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