研究課題/領域番号 |
20K21944
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
大家 かおり (柚木かおり) 立命館大学, 国際関係学部, 授業担当講師 (40775045)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 現代ロシア / ポスト社会主義の文化 / ロシア人 / バラライカ / 民俗音楽 / 伝統文化 / フォークロア / 文化政策 |
研究実績の概要 |
現地調査を基に現代のロシア人の伝統文化、こと国民的楽器バラライカの演奏文化の保存・変容・発展の諸相を、ポスト社会主義の文化の一例として記述することを目的とする本研究は、当該年度は新型肺炎Covid-19の流行により渡航ができず、予定していた調査内容に変更が生じた。 計画では、現地発信のSNSやHPでの公開情報の分析と直接対話による聞き取りと、現地での「発掘」と「再生産」の以下①~⑧の調査・観察を行うことになっていた。①バラライカ博物館と楽器製作所見学+農村調査(ウリヤーノフスク州)、② 若手の活動(①の本拠地)の継続調査(モスクワ)、③ 中堅活動家訪問+農村調査に同行+レッスン・集会等見学(リペツク州)、④ 若手訪問+レッスン・集会等見学(コストロマ州、チェリャビンスク州)、⑤ 超世代の新組織KTI訪問+レッスン・集会等見学(モスクワ)、⑥現在準備中のバラライカ博物館(モスクワ)、⑦ ⑧研究者との意見交換+若手との交流(モスクワ、ペテルブルク)、である。 前述のように①~⑥の現地調査については渡航が必要なため全く進展がなかったが、うち①~④に関しては、インターネットを通した聞き取りを基に、オンライン開催によって参加機会が増えたロシアの学会での口頭発表を4本行うことができ、論文を1本執筆した(現在査読中)。学会発表は次年度に日露両国で一気に行う計画にしていたが、基礎情報の各人のまとめをロシアの各学会のテーマに沿って行うことができ、逆に計画よりも早く成果が上がっている。⑤⑥は発表の段階にはないが、基礎的な情報の収集を行った。⑦⑧は前述の学会発表を行った関係で、大規模ではないがSNS上で適宜個人的に行っており、学会発表に見合った成果を得た。 以上、調査としては大幅な制限があったが日本でできることを最大限に活かし、ロシア本国で本研究を新しい研究対象・方法として問題提起をすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は渡航ができず、2回予定していた現地調査がまったくできていない。それでも「本人が自分について一方的に雄弁に語る」情報を収集することは有効であり、ウェブ上の本人発信の情報をまとめ、本人たちとの会話も事実関係の確認のレベルでは行うことができ、当初の予定にはなかった成果発表に繋げることができた。 ただし、この方法が通用したのはこれまでに現地で実際に交流があった人たちに限られ、活動実態を現地で見てみない以上は、関係者や状況といった空間的情報は実感として把握できにくい。しかも、どの対象者の活動も現代ロシア社会の急激な変化とともに年々発展を遂げており、私の前回の渡航の2018年時点の理解とはずれが生じているのも、日本にいてウェブ上で観察しながら感じている。本研究の目的達成のためには、第1にロシア世代(ソ連崩壊後に成人)の愛好家の最近15年の活動内容およびその理念、第2に彼らのソ連世代との関わり方(世代間格差があれば、その調整の仕方)の2点を明らかにする必要があるが、今年度はとてもそれらを掘り下げる段階には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
前項より、現時点では状況を実際に目で見て確かめていないため、最終的に学術的成果物を出せる材料が収集できるかどうか不安が残ると言わざるを得ない。この1年で入国が許可になるかどうか先行き不透明であるが、次のような方策を考えている。 1.引き続き、日本にいてインターネットを通じて入手できる情報は、継続して収集・分析を行う。同様に、聞き取り調査も続ける。 2.計画では全部で4度の現地調査を考えていたが、渡航可能になればできるだけ多くの回数の調査を、時期を変えて最低でも2度は行いたい。 3.日本で予定していた成果発表は、上述の理由により行いにくいため、秋の全国大会での学会発表を個人発表からセッションに切り替える。折しも今年はソ連崩壊30年にあたることから、現代文化にソ連の文化政策がどれだけ反映されているかという比較をしてみたい。セッションは2学会で組み、日本ロシア文学会ではロシア国内の民族間の比較を、東洋音楽学会では旧ソ連の他の共和国との比較を行う。私は代表を務め、ロシア人の文化の事例として本研究の成果を提示する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型肺炎により出入国ができず、計画していた現地調査2回分の渡航費、滞在費、および調査用物品費を使用しなかったため。次年度に渡航ができるようになれば、そのまま充てる。
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