当初の計画では、農村伝統文化を現代の都市文化の形態に移入し発展させる原動力となった、主に1980年代生まれの世代、それも制度上の専門教育を受けていないアマチュア層の、現地発信のSNSやHPでの公開情報の分析、直接対話による聞き取り、現地での調査・観察を行うことになっていたが、コロナに続き戦争により渡航の機会を奪われたため、実施方針を変更した。 現地調査の代用として、2021年度にYouTubeの本研究専用チャンネルを開設し、Zoomにて基礎的なインタビューを行った動画をインフォーマントと共同作成し、日本語字幕付きで定期的に公開していたが、今年度もインフォーマントの幅を広げて継続した。年度中に13本のインタビュー動画と、5本の解説動画を公開した。そのような遠隔調査の動画からでも、ソ連崩壊後20年を経て、新たな世代の手による社会主義と資本主義がうまくかみ合った、現代の伝統文化の生産的な実態を十分見ることが可能だったが、今年度はその内容を反映させた一般書の出版の執筆に充てた。 2024年3月出版の著書では、前述インタビューのうち12人分を取り上げ、絶版となっていた2006年出版のバラライカの歴史の概論を修正加筆し、さらに出版社よりの提案で、旧ソ連のバラライカに類似の楽器の分布の概略をロシア語文献を基にまとめた。バラライカという楽器自体は我が国では知られているが、その歴史や、ユーラシア大陸における位置づけや、ましてや現在活動的に復興運動をしているポストソ連世代の生い立ちや国の政策への批判や伝統文化への思いといった、言語を知り、文化の中に深く入っていかないと目にすることのない情報を、日本語で広い層の読者用に出せたことは、戦後を見据え、渦中にあるロシアという国、ロシア人という民族を知り、理解する助けになると思われる。
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